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鏡の中の天使と悪魔

この作品は、執筆中の映画の脚本を小説にしたものです。

尚、少々、過激な描写がありますので、ご注意ください。

ご感想等を頂ければ幸いです。

「生きる意味って何?」

6年前の冬、16の時。初めてここで体を売った日。私はシュンさんに聞いた。

「空気を吸って、水を飲んで、ご飯を食べて、オシッコして、ウンコして、笑って、泣いて、悲しんで、怒って、働いて、勉強して、セックスして、何のために人は生きてるの?」

これは誰でも思春期に思うこと。でも、みんな、本当の答えを聞けないまま大人になって行く。そして、やがて、そんなことはどうでもよくなって年を取って死んで行く。

この時、シュンさんは私にこう言ってくれた。

「生き物逹はみんな繁殖の為に生きてるの 大昔から生き物は、変化する環境に適応する為に生き方を変えて姿までも変えて進化して来たの それは、ただ種を残す為。自の遺伝子を残す為。それが出来たくなった種はこの地球上から消えていった 繁栄と絶滅 それは大昔から繰り返されて来たすべての生ける物に課せられた自然の摂理 人も子孫を残す為に生きてるはずなんだけどね」


私は高校1年の時、家を出た。それは、学校でのイジメとなによりも母親から逃げるためだった。私の母親は、本音と建前を使い分ける世界で生きる芸者だった。冷淡で勝気な性格の彼女は何時も陰気で根暗でのろまな私を罵倒して暴力を振るった。

夜、一人ぼっちになった私の夕ご飯は、カップ麺や惣菜パン。

彼女が家にいない時は、夏はエアコンを消され、冬はストーブを消され、テレビを消され、冷蔵庫のドアにカギをかけられた。勿論、自由に使えるお金もない。でも、それに私は逆らえなかった。それは、逆らったら殺されると思い込んでいたからだ。

学校の先生に助けを求めても信じてはくれなかった。それは、彼女がその話術で先生に魔法をかけて、味方につけていたからだ。彼女は、友達にも魔法をかけた。その魔法にかかった友達は根暗な私が言う非現実的な虐待の話など、私の妄想だと思っていた。

家を出て最初に私に待ってのは、飢えだった。30キロそこそこの私のやせ細った身体が一層、軽くなって行った。働いてお金を稼ぎたかったが、普通のバイトは家出少女には冷たかった。

そんなある日。公園のベンチで寝ていた時、一人の中年の男が声をかけてくれた。見るからに怖そうな感じだったが、ご飯を食べさせてくれて、私の話を真剣に聞いてくれて慰めてくれた。不思議とこの時は、この男には何でも話すことが出来て安らぎを感じた。事情を話したら、その男はバイトを紹介してくれると言うので喜んでついて行ったら、そこは風俗だった。風俗と言っても表ではなく裏の店。正義のヒーローなんていない、世の中はこんなものか。と、その時私は悟った。もう、私にはこの仕事をするしか生きて行くことが出来ない。私と同じぐらいの年頃の女の子たちとの共同生活。ここにいたら、取り合えず飢えることはないし、なによりも布団で寝ることが出来る。世間から隔離されて育てられて生きて来た16歳の私は、その時、そう考えることしか出来なかっし、耐えられると言った甘い自信もあった。

そして、不特定多数の男達を相手にして行く内に、普通の16歳の女の子がする恋愛や遊びが出来なくなって行った。肉体と心を削るその生活は、想像してたよりも遥かに甘いものではなかった。

もう、後戻りが出来なくなった私に次に待っていたのは薬物。それは、現実を忘れさせてくれる唯一の手段だった。私は、その非現実の夢を見ることが出来る魔法の薬に溺れて行った。私は、その快感のために身体を売り続けた。ここにいる女の子達もみんなその餌食になっていた。私は心も体も汚れきった。でも、男達は、私がいくら汚れようが、むさぼるのを止めてくれなかった。シュンさんの言う繁殖の為ではなく、ただ快感の為だけに私は抱かれ続けた。リストカット、飛び降り、薬、何度も死のうと思った。でも、死ねなかった。

ある日。この地獄のループに耐えきれなくなった私は、思い切って家に帰った。1年ぶりの家。前は地獄だったがその時は天国にも感じた。

「ただいま」

彼女は、私を見てこう言った。

「何で 帰って来たの?」


微かなGを感じて目が覚めた。

私達を乗せたゴンドラが夢の館の最上階に着いたようだった。

ふと、隣を見たらケイはうつむいていた。

私達は、薄暗い廊下を無言で歩いて赤い分厚い扉の前に立った。

うつむいたままのケイ。

ゴメン。 

魔法に、かけちゃった。

「大丈夫! 入ろ!」

「う うん」

大きな鏡に囲まれた大きなベット。

それは、築35年のこのホテルにはお似合いの一昔前のラブホテルの部屋だった。

この部屋でいったいどれだけの男と女がむさぼり合ったのだろう。

真実の愛、偽りの愛、売る愛、買う愛、略奪の愛。

「こう言うとこ 初めて?」

ケイは、恥ずかしそうにうなづいた。

鏡に映った私とケイの顔。

「似てるかな?」

「鼻が似てない?」

「目は?」

「目は あんまり似てないかな」

「耳は?」

「私 ピアス してないから」

半分姉妹の私達は、お互いに似てる何かを確かめ合おうとしていた。

「服 脱いで」

「えっ!?」

「見たいの」

また、ケイは、うつむいた。

「恥ずかしい?」

ケイは、微かに首を横に振って、ブラウスのボタンに手をかけた。

私もボタンに手をかけた。

鏡に映った、私の汚れた悪魔の身体とケイの無垢な天使の体。

それは、似ていなくて当たり前。

「似てるかな?」

私は、ケイに尋ねた。

「半分 似てる」

「半分? ありがとう」

「ありがとうって?」

「恥ずかしい?」

「うううん」

と、ケイは私の目の前に右手を差し出した。

「これ リストカットの跡」

ケイの細い色白の手首には薄っすらと細い傷跡があった。

「16の時 初めて死のうと思ったの」

「ふーん 私も」

「えっ?」

「16の時 死のうと思った」

「でも 死ねなかった?」

ケイは、いたずらっぽく微笑んだ。

「ケイもでしょ?」

「うん お互い 弱虫だね」

「弱虫なんかじゃないよ」

「えっ?」

「それって きっと 神様の守られてるんだよ」

「神様?」 

「そう神様」

鏡の中の悪魔と天使は、心で愛を確かめようとしていた。














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