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プレゼンスB  作者: 重山ローマ
なんでもするって言ったよね?
20/45

 

「肝試しって、したことなかったんだけど」


「ヒィッ」 


 唯野が急に話し出したことに声を上げる部長。

 相変わらずのビビリである。

 部長が声を出さなければ、俺がその頼りない悲鳴を上げていたところだっただろう。


「俺もないよ。墓とか、深夜の学校とか。そういうのにはずっと縁がなかったな。よし、音楽室着いたぞ」


「普通はそんな経験しないってことなのかしら。創作物っていうのは、なんにしても信用できないわね」


 捏造とまでは言わないが、実際に経験したことのある人は少なそうである。


「ねえ、数馬くん」


「なんだよ」


「音楽室ってここよ」


「……新聞は信用できる部分が多いよな。天気予報が外れるのは仕方ないにしても、テレビ欄が間違うことなんてないし」


「新聞はテレビ欄と天気予報だけで埋まってないわよ。ちゃんと読んでないの?」


「まあ、新聞は読むものというよりは、ポストから取り出して、溜まったら捨てるものだ。いつかはトイレにまで持ち込むようになるのかもしれないが。俺に限ってはそんなことはないだろう。音楽室着いたぞ」


「数馬くん」


「なんだよ」


 早く開けろと睨みつけてくる。


「怖いの?」


「怖いと言えば嘘になるず」


 変なところで噛んでしまったが。


「あけてぇ。あけるならいっそ思い切ってあけてぇ。ひっそりと開けないでぇ」


 すぐ後ろで頼りない声を上げる部長の声。

 確かに、こういうのはきっと、思いっきりが大事だ。

 つい最近扉をちょっぴり開けてしまったがために、痛い目を見たではないか。

 部長はそのあたりがもうしっかりわかっているのかもしれない。


「あ、開けるぞ……!」


「う、うん」


 唯野がぎゅっと袖を掴んだのがわかった。

 一瞬だ。

 中から光は漏れていないから、中に誰もいないことはわかっている。

 誰もいないのだ。

 誰かがいるわけがないのだ。


 引き戸に手をかける。

 さあ、開けろ。

 さあ。


「唯野」


「な、なに?」


「し、しりとりでもするか?」


「な、何言って……まさか怖いの? 震えてるけど」 


「こ、怖くないさ。ちょっと旅に行ったまま帰ってこない兄のことを思い出したら、泣けてきてしまってな……」


「数馬って三人兄弟で、数馬が長男だよね」


 部長は俺のことをよく知っている。

 話したことがあるのをすっかり忘れていた。


「嘘です。チョー怖いです」


「そっか。なのに頑張ってたんだ」


「そうだよ。悪かったな」


 唯野はそっと手を伸ばして、俺が手を離した扉に手をかけた。


「じゃあ、あたしも」


 体は震えている。

 唯野は目をぎゅっと瞑って。


 がちゃり。


 手に力を入れた。


「…………がんばりました」


「……鍵がかかっていないと、いつから錯覚していた……?」


 鍵がかかっているのは、当たり前のことだった。


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