6
「肝試しって、したことなかったんだけど」
「ヒィッ」
唯野が急に話し出したことに声を上げる部長。
相変わらずのビビリである。
部長が声を出さなければ、俺がその頼りない悲鳴を上げていたところだっただろう。
「俺もないよ。墓とか、深夜の学校とか。そういうのにはずっと縁がなかったな。よし、音楽室着いたぞ」
「普通はそんな経験しないってことなのかしら。創作物っていうのは、なんにしても信用できないわね」
捏造とまでは言わないが、実際に経験したことのある人は少なそうである。
「ねえ、数馬くん」
「なんだよ」
「音楽室ってここよ」
「……新聞は信用できる部分が多いよな。天気予報が外れるのは仕方ないにしても、テレビ欄が間違うことなんてないし」
「新聞はテレビ欄と天気予報だけで埋まってないわよ。ちゃんと読んでないの?」
「まあ、新聞は読むものというよりは、ポストから取り出して、溜まったら捨てるものだ。いつかはトイレにまで持ち込むようになるのかもしれないが。俺に限ってはそんなことはないだろう。音楽室着いたぞ」
「数馬くん」
「なんだよ」
早く開けろと睨みつけてくる。
「怖いの?」
「怖いと言えば嘘になるず」
変なところで噛んでしまったが。
「あけてぇ。あけるならいっそ思い切ってあけてぇ。ひっそりと開けないでぇ」
すぐ後ろで頼りない声を上げる部長の声。
確かに、こういうのはきっと、思いっきりが大事だ。
つい最近扉をちょっぴり開けてしまったがために、痛い目を見たではないか。
部長はそのあたりがもうしっかりわかっているのかもしれない。
「あ、開けるぞ……!」
「う、うん」
唯野がぎゅっと袖を掴んだのがわかった。
一瞬だ。
中から光は漏れていないから、中に誰もいないことはわかっている。
誰もいないのだ。
誰かがいるわけがないのだ。
引き戸に手をかける。
さあ、開けろ。
さあ。
「唯野」
「な、なに?」
「し、しりとりでもするか?」
「な、何言って……まさか怖いの? 震えてるけど」
「こ、怖くないさ。ちょっと旅に行ったまま帰ってこない兄のことを思い出したら、泣けてきてしまってな……」
「数馬って三人兄弟で、数馬が長男だよね」
部長は俺のことをよく知っている。
話したことがあるのをすっかり忘れていた。
「嘘です。チョー怖いです」
「そっか。なのに頑張ってたんだ」
「そうだよ。悪かったな」
唯野はそっと手を伸ばして、俺が手を離した扉に手をかけた。
「じゃあ、あたしも」
体は震えている。
唯野は目をぎゅっと瞑って。
がちゃり。
手に力を入れた。
「…………がんばりました」
「……鍵がかかっていないと、いつから錯覚していた……?」
鍵がかかっているのは、当たり前のことだった。




