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作戦はうまくいった。
唯野蜜柑はやはり、ジャーナリストである。
適当に話を作って、一緒に取材して、そして記事にする。
記事のアンケートなんて嘘。
『奇跡的に8割を超えたわ、あなたたちとあたしが組めば最高の新聞部よ!』
ふふふ。これで新聞部は4人になり……。
一人足りないけど柚子に頭を下げればきっと大丈夫。
4人になるなんて、柚子も思ってないだろうし。
ただ問題は、あたしは怖いところが嫌いで、おばけも嫌いだという事。
幸い男が付いてきてくれるみたいだし、おばけに食べられる事はないでしょう。
教師はまだ何人か残っているが、校舎は静かだった。
何も聞こえない。
ことはない。
すぐ隣でガタガタと肩を震わせているやつがいる。
「おばけ怖いぃ」
「取材よ。ふ、ふふ。ホラ貝の謎は嘘なんだから。それでいいのよ蜜柑。おばけもきっといないわ。ふ、ふふふふ」
頼りない二人である。
二人がなにを言っているのか把握できない俺も、相当ビビって震えてしまっているのだろうが。
「な、なななな何ビビってるんだよ! さっさと終わらして帰るぞ!」
何回目かわからないセリフだった。
部室を一歩出てからすでに、40分が経過していた。
「ねえ、数馬くん」
「なんだよ」
廊下を歩いていく。
いまのところ変わった様子はない。
「あの話、本当なの?」
「……」
「ごめんなさい。あなたにとってはすごくデリケートな事なのかもしれないけど、でもやっぱり気になっちゃって」
思い出そうとして、すぐやめた。
俺はいま楽しい場所にいる。
昔の事はいい。新しい友人も手に入れた。
それでいい。
「その話はしたくない。好き勝手書いていたじゃないか。新聞部の記事、嫌でも目がつくところに貼ってあったからな」
「謝ろうって思ってたのよ。あの記事を書いていたとき、あたしはまだ副部長だった。反対して、反対して。そしていつのまにか誰もいなくなった。そしてあたしの書く記事には、だれも目を向けなくなった。普通ってことなのかしらね」
「唯野蜜柑か」
「……なによ。ただのミカンじゃないわよ。唯野蜜柑よ。イントネーチョンが大事なのよ」
何か間違っている気がするが。
「だから頭に蜜柑乗せてるのね」
部長がじっと唯野の頭を見た。
「そうか、お前の髪型。蜜柑を乗せているのか」
「そんなわけないでしょ! 団子っていうのよ! お団子ヘアー! 蜜柑乗せてるのは鏡餅!」
「なんだよ。そんな大きい団子があるわけないだろ」
「あのねえ……頭に蜜柑乗せてるのは、バカがする事なの! ジャーナリストがそんなことするわけないでしょ」
「お餅ってバカなの?」
部長が言う。
まあ、彼女が言うにはそういう事になるが。
「頭に団子乗せるのもどうかと思うけどな」
「なによ。あたしのこのお団子が、本物の団子にみえるわけ? 餡子でもかけたらおいしいのかもしれないわね。あたしはきな粉派だけどね!」
「髪の毛が食えるわけないだろ」
「……ねえ、もしかしてあたしで遊んでる?」
まあ、話していれば怖さも紛れる。
彼女も、部長も、震えは止まったようだし。
学校を一周したところで、何もなかったと、部室に戻ることにした。
とはいえ、何もなかったことが記事になるとは思えない。
「写真、撮らなくていいのか? もういっそのこと、夜の肝試し記事にしておけばいいじゃないか」
「それもそうね。でも、ちょっと問題があるんだけど」
「問題?」
「いや、なんでも……。明日になれば分かることよ」
唯野はそう言って、はっきりと教えてはくれないようである。
「怖いところを写真に撮って、終わりにしよう。もうそろそろ先生たちも帰る頃だろう」
「そうね、それまでには一度職員室に来いって話だし」
「じゃあ音楽室からいこー」
部長は俺の背中を押して歩き始める。
「どこから行くの?」
「音楽室だよ。聞いてなかったのか?」
「わ、わかったわ」
そうして、唯野は俺の腕を掴んだ。
「……」
「……なんで止まるの?」
「あ、いや……その……まあ、いいか」
なにか妙な汗をかきながら、俺たちは歩みを進めた。
足音が静かにこだましている。




