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プレゼンスB  作者: 重山ローマ
なんでもするって言ったよね?
19/45

 

 作戦はうまくいった。

 唯野蜜柑はやはり、ジャーナリストである。


 適当に話を作って、一緒に取材して、そして記事にする。


 記事のアンケートなんて嘘。


『奇跡的に8割を超えたわ、あなたたちとあたしが組めば最高の新聞部よ!』


 ふふふ。これで新聞部は4人になり……。

 一人足りないけど柚子に頭を下げればきっと大丈夫。

 4人になるなんて、柚子も思ってないだろうし。


 ただ問題は、あたしは怖いところが嫌いで、おばけも嫌いだという事。

 幸い男が付いてきてくれるみたいだし、おばけに食べられる事はないでしょう。





 教師はまだ何人か残っているが、校舎は静かだった。

 何も聞こえない。

 ことはない。

 すぐ隣でガタガタと肩を震わせているやつがいる。


「おばけ怖いぃ」


「取材よ。ふ、ふふ。ホラ貝の謎は嘘なんだから。それでいいのよ蜜柑。おばけもきっといないわ。ふ、ふふふふ」


 頼りない二人である。

 二人がなにを言っているのか把握できない俺も、相当ビビって震えてしまっているのだろうが。


「な、なななな何ビビってるんだよ! さっさと終わらして帰るぞ!」


 何回目かわからないセリフだった。

 部室を一歩出てからすでに、40分が経過していた。





「ねえ、数馬くん」


「なんだよ」


 廊下を歩いていく。

 いまのところ変わった様子はない。


「あの話、本当なの?」


「……」


「ごめんなさい。あなたにとってはすごくデリケートな事なのかもしれないけど、でもやっぱり気になっちゃって」


 思い出そうとして、すぐやめた。

 俺はいま楽しい場所にいる。

 昔の事はいい。新しい友人も手に入れた。

 それでいい。


「その話はしたくない。好き勝手書いていたじゃないか。新聞部の記事、嫌でも目がつくところに貼ってあったからな」


「謝ろうって思ってたのよ。あの記事を書いていたとき、あたしはまだ副部長だった。反対して、反対して。そしていつのまにか誰もいなくなった。そしてあたしの書く記事には、だれも目を向けなくなった。普通ってことなのかしらね」


「唯野蜜柑か」


「……なによ。ただのミカンじゃないわよ。唯野蜜柑よ。イントネーチョンが大事なのよ」


 何か間違っている気がするが。


「だから頭に蜜柑乗せてるのね」


 部長がじっと唯野の頭を見た。


「そうか、お前の髪型。蜜柑を乗せているのか」


「そんなわけないでしょ! 団子っていうのよ! お団子ヘアー! 蜜柑乗せてるのは鏡餅!」


「なんだよ。そんな大きい団子があるわけないだろ」


「あのねえ……頭に蜜柑乗せてるのは、バカがする事なの! ジャーナリストがそんなことするわけないでしょ」


「お餅ってバカなの?」


 部長が言う。

 まあ、彼女が言うにはそういう事になるが。


「頭に団子乗せるのもどうかと思うけどな」


「なによ。あたしのこのお団子が、本物の団子にみえるわけ? 餡子でもかけたらおいしいのかもしれないわね。あたしはきな粉派だけどね!」


「髪の毛が食えるわけないだろ」


「……ねえ、もしかしてあたしで遊んでる?」


 まあ、話していれば怖さも紛れる。

 彼女も、部長も、震えは止まったようだし。


 学校を一周したところで、何もなかったと、部室に戻ることにした。

 とはいえ、何もなかったことが記事になるとは思えない。


「写真、撮らなくていいのか? もういっそのこと、夜の肝試し記事にしておけばいいじゃないか」


「それもそうね。でも、ちょっと問題があるんだけど」


「問題?」


「いや、なんでも……。明日になれば分かることよ」


 唯野はそう言って、はっきりと教えてはくれないようである。


「怖いところを写真に撮って、終わりにしよう。もうそろそろ先生たちも帰る頃だろう」


「そうね、それまでには一度職員室に来いって話だし」


「じゃあ音楽室からいこー」


 部長は俺の背中を押して歩き始める。


「どこから行くの?」


「音楽室だよ。聞いてなかったのか?」


「わ、わかったわ」


 そうして、唯野は俺の腕を掴んだ。


「……」


「……なんで止まるの?」


「あ、いや……その……まあ、いいか」


 なにか妙な汗をかきながら、俺たちは歩みを進めた。

 足音が静かにこだましている。


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