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「さて、やあ諸君。あたしは新聞部部長の唯野蜜柑だ」
「俺は数馬。そこで本読んでいるのは三波。机の下に隠れているのは部長だ」
「おばけじゃない? 本当におばけじゃない?」
下からぶつぶつ聞こえるが、無視することにしよう。
「先ほどはびっくりしただろう。ふふふ。ごめんね。びっくりさせて。そんなつもりはなかったの。ジャーナリストって、そういうものなのよ」
白目をむいて下着を晒していたやつが言うとは、たしかにびっくりする話である。
「この部室には何をしにきたんだ? 部長ってことは、部員募集をみてきたわけじゃないだろ。なにか助けて欲しいことがあるのか?」
「そうなんだよ」
こほん、と咳払いをする。
「新聞部は廃部の危機を迎えている。ぜひ、助けて欲しい」
「それは無理じゃないか?」
「無理ね」
三波も同意してくれた。
「そういうのは、生徒会に頼むべきよ。一般生徒に頼むことじゃない」
「すでに交渉済みよ。それで、あなたたちにも手伝ってもらおうと思って」
「なるほど。なるほど」
やっと机からでてきた部長は大きく頷いた。
「具体的には?」
「深夜、この学校ではある噂話があることを知っているかしら? 誰もいない校舎から」
「ピアノの音が聞こえるのか?」
ありがちな話だが、それが本当ならこの学校にあるピアノをすべて破壊しないと。
「……ホラ貝の音が聞こえるのよ」
「……」
「ホラ貝の音が聞こえるのよ」
「……二回も言わんでいい」
なんだか拍子抜けする話だが。
まさに信じられない話だが。
「それが嘘か本当か、記事にして学校中にばらまくの。新聞部の評価は鰻登りよ。良い記事を書けば、必ず良い評価がつくわ。読者アンケートで、まだこんな記事を読みたい、というのが8割を越えれば、部活は継続。取材は一人では限界があるの。あなたたちにかかっているわ」
なんにしても、答えはひとつだった。
「答えはノーだ。手伝わない」
「どうして!?」
怖いからだよ。
「ま、まあ、夜に学校に入ることは禁止されてるからな」
「許可は取るわ! だからお願い! なんでもしますから!」
怖いから嫌だ。
「いいんじゃない? この依頼は受けたほうがいい」
三波は本を閉じて立ち上がった。
珍しく三波も参加してくれるらしい。
心強かった。
「私は行かないけどね」
撤回。
こいつ心強くない。
地獄に俺を突き落とそうとしている。
「肝試しかあ。楽しみだなあ」
足を震わせながら部長は言った。
俺は楽しみじゃない。
しかし、と考えてみる。
もしこの依頼がうまくいかなかったとすれば、唯野蜜柑は部を失う。
行き場を失う。
となると行き先はひとつしかない。
仮名なんでも部だ。
「じゃあまずは俺がその取材に参加しなくてもいい方法を考えよう」
最優先事項だ。




