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プレゼンスB  作者: 重山ローマ
なんでもするって言ったよね?
18/45

 

「さて、やあ諸君。あたしは新聞部部長の唯野蜜柑だ」


「俺は数馬。そこで本読んでいるのは三波。机の下に隠れているのは部長だ」


「おばけじゃない? 本当におばけじゃない?」


 下からぶつぶつ聞こえるが、無視することにしよう。


「先ほどはびっくりしただろう。ふふふ。ごめんね。びっくりさせて。そんなつもりはなかったの。ジャーナリストって、そういうものなのよ」


 白目をむいて下着を晒していたやつが言うとは、たしかにびっくりする話である。


「この部室には何をしにきたんだ? 部長ってことは、部員募集をみてきたわけじゃないだろ。なにか助けて欲しいことがあるのか?」


「そうなんだよ」


 こほん、と咳払いをする。


「新聞部は廃部の危機を迎えている。ぜひ、助けて欲しい」


「それは無理じゃないか?」


「無理ね」


 三波も同意してくれた。


「そういうのは、生徒会に頼むべきよ。一般生徒に頼むことじゃない」


「すでに交渉済みよ。それで、あなたたちにも手伝ってもらおうと思って」


「なるほど。なるほど」


 やっと机からでてきた部長は大きく頷いた。


「具体的には?」


「深夜、この学校ではある噂話があることを知っているかしら? 誰もいない校舎から」


「ピアノの音が聞こえるのか?」


 ありがちな話だが、それが本当ならこの学校にあるピアノをすべて破壊しないと。


「……ホラ貝の音が聞こえるのよ」


「……」


「ホラ貝の音が聞こえるのよ」


「……二回も言わんでいい」


 なんだか拍子抜けする話だが。

 まさに信じられない話だが。


「それが嘘か本当か、記事にして学校中にばらまくの。新聞部の評価は鰻登りよ。良い記事を書けば、必ず良い評価がつくわ。読者アンケートで、まだこんな記事を読みたい、というのが8割を越えれば、部活は継続。取材は一人では限界があるの。あなたたちにかかっているわ」


 なんにしても、答えはひとつだった。


「答えはノーだ。手伝わない」


「どうして!?」


 怖いからだよ。


「ま、まあ、夜に学校に入ることは禁止されてるからな」


「許可は取るわ! だからお願い! なんでもしますから!」


 怖いから嫌だ。


「いいんじゃない? この依頼は受けたほうがいい」


 三波は本を閉じて立ち上がった。

 珍しく三波も参加してくれるらしい。

 心強かった。


「私は行かないけどね」


 撤回。

 こいつ心強くない。

 地獄に俺を突き落とそうとしている。


「肝試しかあ。楽しみだなあ」


 足を震わせながら部長は言った。

 俺は楽しみじゃない。


 しかし、と考えてみる。

 もしこの依頼がうまくいかなかったとすれば、唯野蜜柑は部を失う。

 行き場を失う。

 となると行き先はひとつしかない。


 仮名なんでも部だ。


「じゃあまずは俺がその取材に参加しなくてもいい方法を考えよう」


 最優先事項だ。


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