鈴木文太 完
後日、文太に彼女ができた。
もう部室に来ることはなくなったが、まだ時々話す友人として仲良くやっている。
部長といえば、今回の依頼でほぼほぼなにもできなかったこと。
格好つけていたらばっちり見られてしまったことが恥ずかしかったようで、自分のことを親友と認めろと(ほんの少し)言わなくなった。
また依頼人を逃してしまい、結局前と変わらない部室には、なんでも部の部長と俺の2人に加えて、一人の生徒が居座っている。
「図書室から近くて便利よね。あそこうるさい人がよくくるから、ここなら静かでしょ」
三波千和である。
彼女は文太の一件以来、くるようになった。
まあそもそも、一人帰っていく彼の姿を放っておくことができなくて、明日から部室に来いと言った俺のせいなのだが。
追い返す理由なんてない。
「ねえ、千和。遊ぼうよ」
「……」
「ねえ、三波。遊ぼうよ」
「……」
「三波様遊んではいただけませんか?」
「嫌よ」
「親友なのに!?」
そもそも親友なら様付けで呼ぶなよ。
部長は三波とも仲良くなったようで、こうして激しく会話している。
俺にベッタリだったから、すごくうれしい。
「じゃあ、数馬。遊びに行こっか」
「なんでだよ」
「なんで!? 親友なのに!?」
だから俺とお前は親友ではない。
「頼もう!」
そこに、懐かしい声が聞こえた。
確か初めてここにやってきたときも、そんなことを言っていたかもしれない。
「なんだよ文太」
「ある牧場に迷い込んだブタは、心配そうにこちらを見る兎と仲良くなった。兎は自分の小屋から出たことがないらしい。そういうことだ」
「つまりお前はブタなんだな」
「ブヒィッ!」
だからそれは言わんでいい。
三波がすごい顔でこっちをみているじゃないか。
俺は関係ないから、汚物を見るような視線は文太にだけ送ってくれ。
「初デートかあ」
部長が文太の話をうまく訳してくれた。
なんというか、何度聞いても、文太の話は理解できない。
「わかりにくいやつだな」
俺はまた、いつものようにそう言った。
友達になったところで、それはずっと変わらないだろう。
変わらない関係。
俺には勿体ない幸せだった。




