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プレゼンスB  作者: 重山ローマ
それってつまりそういうこと?
13/45

7

 

「文太」


 部室に戻ってきた俺は、部長と腕相撲をしている文太に言った。


「み、脈ありだよあれぇ! きっと三波オッケーくれるよ!」 


「そうか。行ってくる!」


「待てい!」


 迷わず飛び出そうとする文太を引き止める。


「数馬。例えばだ……」


 文太は俺の肩に手を置いて言った。


「柵が壊れた牧場に、そのまま居続けるブタなんているのか? そういうことだ」


「え」


 文太は脇を抜けて走っていく。


「追うの?」


 部長が椅子に座ったまま、こちらも見ずに言った。


 追いかけなければいけない理由はないし、もっと言ってしまえば


「依頼としては踏み入れすぎか」


「そうだね。だって、文太くんの依頼は『男にしてくれ』なんだもん。自転車に乗れるようになって、告白に行こうと思えるようになった。その時点でもう僕たちの仕事は終わったんだよ。なんでも部の仕事はね」


 なんでも部っていうのは初めて聞いた名前だが。


「……俺は、あいつの友達なんだよな」


「どういうこと?」


「そういうことだよっ」


 俺は文太を追って走り出した。

 応援したっていいじゃないか。


「全く。困った人たちだね」


 部長は格好つけて呟いた。








「おい」


 文太を追って走り出した俺は、部室を出て数メートルのところに倒れている文太を発見した。


「うぇっ。吐きそう」


「なんだよ。告白にいくんじゃなかったのかよ」


「胸が苦しい。心臓が締め付けられているみたいだ」


「ハムみたいに?」


「そう、ハムみたいに」


 うまく返せないくらい余裕がないらしい。


「全く。うちの部員のことも心配だし、僕もおいかけようか——ヒィッ! まだいるぅ!」


 部室から出てきた部長が声を上げた。

 恥ずかしそうに頬を染めている。


「文太、それは緊張ってやつじゃないのか?」


「緊張すると人の心臓はハムになるのか……?」


「え、なにそれこわい」


 部長は黙っていろと視線で促す。

 なにを思ったのかウインクで返してきた。

 やめろ気持ち悪い。


「どうしよう。オレ死んじゃうのかな」


「死なねえよ。告白するんだろ?」 


 振られるのがわかっている側とすると非常に辛いのだが。

 それでも背中を押さなければ。


「あ」


 そこに、ふらりと一人の生徒が現れた。

 その生徒は、廊下にべたりと倒れている文太を見下ろして、そしてなにもなかったように彼を踏みつけた。


「うぐっ」


「数馬くん。あのまま置いて行かれた側とすると、あまりにスッキリしなくてね。結局なにだったのか教えて欲しいの」


「三波……」


 三波千和は、文太を踏みつけたまま話を続ける。


「文太が一緒にいたのを朝に見てるから、まさかとは思っていたけど。文太のバカな話に付き合ってたの? どうして?」


「た、頼まれたからだよ」


「オレと付き合ってくれぇ! 千和ぁああ!」


「嫌よ」


「それで、なにを頼まれたの?」


「あ、いや……」


 いまさらりと文太振られなかったか?


「ははっ」


「いまそこ笑うところじゃないよ。数馬」


 なんでお前に指摘されなきゃならんのだ。


 部長は味方ではないらしい。


「それでまさか、文太が私に告白しようとしてたのを手伝ったってこと?」


「そうなるな」


「それってつまり」


 三波はそこでため息をついて、文太を起き上がらせた。

 制服の乱れを直してあげている。


「文太。文太には私よりもっといい人がいるから」


「いや、オレには」


「文太には……私は重すぎるよ」


 文太の背中を押して、そして、廊下の先に立っているだれかを指差した。

 遠目では、その生徒が女子生徒であることしかわからないが。


 女子生徒は背を向けて、逃げるように走り出した。


「ほら、文太追いかけて」


 何度も振り返りながら、文太は走っていく。

 三波は最後までその姿を見送って、ほっと息を吐いた。


 何か彼に声をかけなければならない。

 そう思うだけで、俺は結局三波になにも言えないでいた。

 表情をしっかりと見たわけではないが、振り返る彼の複雑な作り笑いに、俺も似たような笑みを返す。


 じゃあ、と一言残して帰っていく三波を追いかけようとすると、部長が腕を掴んで止めてくる。


 やはりなにか、彼に言わなくては――。

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