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プレゼンスB  作者: 重山ローマ
それってつまりそういうこと?
12/45

6

 

 いつもはたまたま会うだけで、自分から会いに行くのは初めてだった。

 妙な緊張感がある。

 もしかすれば、俺が知らないだけで、『三波千和』という男子生徒は、実は女子生徒ということも——と考えたがすぐにやめた。


 そんなはずがないのだ。

 連れションだってしたし、そもそも、男だということを本人に確認したことだってある。


「……」


 図書室の前にやってきて、どう入れば良いのかがわからなくなった。


「ノックするのか? 職員室とかと同じで」


 図書室といえば静かなイメージだが、誰かが入ってくるたびにコンコン音がなるのはおかしい。

 では、ノックはなしである。


「……」


 扉の開け方を考えなければ。

 引くのか、押すのか。


「なにしてんのよ。数馬くん」


「うぎ……」


 良いタイミングで出てきた。


 いなかったらいいのにと考えていなくもなかったが。


「三波、その、話がだな……」


「な、なに? 言うならパッと言って」


「なんというか……ここでは話しにくいというか……」


「……わかった。屋上でいい?」


 やけにすんなり受け入れてくれるのは、さすがというところか。


 ただ面倒だからさっさと終わらせようとしているだけなのか。


「……」


 本を抱えたまま、三波千和は歩いていく。

 後ろを付いていくと、ぴたりと階段を前にして止まった。


「ん」


 視線で促されて、俺は先に階段に足をかけた。

 この学校のスカートはやけに短いから、見られてしまうのが嫌なのだろう。


「……?」


「ちょっと、早く上がってよ。誰かに見られたらどうするの」


「あ、ああ。悪い悪い」


 なにか引っかかることがあったような気もするが。


「だれもいなければいいが」


 扉を開けると、途端に視界が広がった。

 日が傾き始めて、空は赤みがかかり始めている。


 安全のために設置された、無機質な金網が浮かんで見えた。


「で、話ってなに?」


「お、おう」


 三波と向き合う。

 じっと、三波の顔を見つめた。


 男にしては長めの肩まで伸びた黒髪と、男にしては珍しい華奢な体。


 そして、男にしては珍しいスカート。


「……」


「なに」


「ふ、ふは。なんでもない」


 緊張する。

 告白するのは文太じゃないか。

 俺が緊張するのはおかしい。


「文太って、わかるか?」


「……なによ。文太がなに?」


 急に不機嫌そうになる。


「あいつ、お前の幼馴染なんだってな」


「そうよ」


 知っていることを聞いてどうするんだよ。


 そもそも、三波に話しにきたはよかったが、なにを話せばいいのかが全くわからない。

 聞けばわかるって、なにを聞くつもりだったんだ俺は。


「み、みみみみみみ三波は文太のこと好きか?」


 言ってはいけないことを言ってしまう。


「嫌いよ」


 言われてはいけないことを言われる。


「……」


「……」


 なんとも言えない空気が流れる。

 何も言えない空気というか。


「じゃ、それだけだ」


「え?」


 だから俺は逃げることにした。


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