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センガ老人を火葬する為に、ギィと葬儀社のスタッフは、葬儀の途中で一旦席を外す事になった。
と、その時、一人の見慣れぬ若い娘が、葬儀会場に現れる。
『~さん』
ギィは、滅多に使う事のない自分の本名が、自国語で呼ばれるのを聞いた。
『良かった。火葬には間に合ったみたいですね』
そう言って、白い服に身を包んだ、凛とした美貌を持つその娘は、棺の側に立つギィの方へ歩み寄る。
『ちょうどこれから棺を出す所です。お別れをするのでしたら、今の内にどうぞ』
ギィも自国語で、その娘に話し掛けた。
『私も火葬場まで同行したいのですが』
『失礼ですが、あなたも親類の方ですか?』
『いいえ。でも、これから親類になるかもしれません』
娘はギィに微笑みかける。
ギィはすぐに事情を察した。
『間違っていたらすみません。つまり、もう売り込みが始まっている、と言うことでしょうか?』
『はい。申し遅れました、ユーチェン・ヤンと言います。ヤン家を代表して、あなたのひいおじい様の葬儀に参りました』
『曾祖父が亡くなった事は、まだ祖国に知らせていない筈です。それに、知ったとしても、四日でここに来られるとは思えませんが』
驚くギィに対し、ユーチェンは笑って、
『ひいおじい様とは、生前メールをやりとりさせて頂いてました。亡くなる数日前に、こんなメールを頂いてこの国に来た所へ、訃報を知ったのです』
ハンドバッグから自分の携帯を出し、自国語で書かれたメールの画面を表示してからギィに見せた。
そこには、「近頃、少し体調が優れない事が多々ある為、万一の場合に備えて、近くまで来ていた方が良い」、と言う内容が書かれている。
用件としてはそれだけだが、その意味する所は大きい。
『曾祖父は、私にあなたを推薦した、と言う事ですか』
『推薦と言う程ではありませんが、生前からメールでの親交があった事、それにこの国での葬儀に参列した事は、他の候補者に対して遥かに有利な条件ですね』
ユーチェンは、その意志の強そうな目で、ギィをまっすぐに見つめ、
『でも、あなたが私との婚姻を望まないのであれば、この有利は放棄します。祖国に戻れば、多くの候補者が現れるでしょうから、じっくりと思案して下さい。その上で私を気に入って下さったならば、この有利を全ての困難を打ち砕く切り札として、遠慮なく使わせて頂きます』
直球かつ自信に満ちた求愛にギィがたじろぐのを、村のおばさん達は見逃さなかった。
何を言っているのか分からないが、ギィとあの娘の間には何かある。
かくして、ユーチェンの周囲をおばさん達が取り囲み、訊問しようと試みたが、ユーチェンはにっこり笑って、
「すみません、ワタシ、この国の言葉、良く出来ません」
村の秘密警察と称されるおばさん達も、言語の壁に阻まれてはいかんともしがたかった。矛先をユーチェンからギィに変えようとしたその時、リーガがやって来て、
『お姉さんは、ギィさんの親戚の方ですか?』
と、ユーチェンに尋ねた。
『あら、あなたは私達の言葉が話せるの?』
『はい、少しだけ。センガさんとギィさんに教わりました』
そのやり取りを聞き付けて、何となく事情を理解したおばさん達は一瞬にしてリーガを取り囲み、
「リーガ君、通訳して!」
有無を言わさず、自分達の好奇心を満たすだけの行為に協力させた。
その結果、ギィが故郷へ戻ると同時にその妻の座を巡って、各家秘蔵の才色兼備な令嬢達によるギィ争奪戦が始まる事になっており、ユーチェンもその令嬢の一人である事が判明する。
「なんっじゃ、そりゃあああ!」
「たくさんの美女に求婚されるって、どんなハーレムアニメだよ!」
「これが格差社会ってやつか。世界の富の大半が、ごく一部の富裕層に独占されてるってアレか!」
「こんな美女と結婚出来るなら、一生自由なんか要らねえ! そんなもの、ドブに捨てちまえ!」
さっきまで、「自由は何よりも尊い」と、ギィに憐憫の情を催していた門下生達が一瞬にして掌を返し、嫉妬と羨望の念に駆られ、発狂の雄叫びを上げた。
『あの人達は、一体何をあんなに興奮しているのですか?』
ユーチェンがギィに尋ねる。
『偉大な武芸者である曾祖父が亡くなったので、とても悲しんでいるのです』
ギィは、しれっと嘘を教えた。




