◆94◆
翌日も翌々日も、ハーフェン翁による小宴会が寮の食堂で催された。
「しばらく見ない内に、寮の雰囲気も随分と変わったな」
プロの料理人達が厨房で鍋を豪快に振り回し、メイド達が食堂内を慣れた手付きで給仕する様子を見ながら、数年振りに寮を訪れた元門下生が呆れた様に言う。
「リコルドじゃねえか!」
古参の門下生が食堂の入口に立っているリコルドに気付き、他の門下生達と一緒にわらわらと集まって来た。
「まだいたのかよ、お前ら。全然変わってねえな」
リコルドが懐かしそうに言う。
「お前も相変わらずツンデレそうで安心した」
「だ、誰がツンデレだっ!」
リコルドはツン期の様だ。
「ツンデレ?」
リコルドから少し離れた所に立っていた、二十代前半位の小柄でおとなしそうな女性が、その奇妙な言葉を口にする。
「い、いや、何でもねえから。こんな奴らの言う事を、真に受けるんじゃねえ」
リコルドがそちらの方を振り向き、慌てた様子で言う。
門下生達は一斉にその女性を注視し、その内の一人が、
「このツンデレとお知り合いですか?」
と、聞いた。
「ツンデレじゃねえ!」
聞いた門下生の首を絞めるリコルド。タップは無視。
聞かれた女性は、くすりと笑い、
「はい。私達来月、結婚します」
その返答に、場が一瞬静まり返る。
リコルドはようやく首から手を離し、真っ赤になって、
「ああ、俺の、その、嫁になる予定の、ルーチェだ」
どよめきが起こり、首を絞められていた門下生が、
「デレた!」
と余計な事を言って、また首を絞められる。
その隙に、何人かが食堂へ戻り、
「リコルドが嫁を連れて来た!」
と、そこにいた村人達に報告。村人達は携帯から即座におばさんネットワークに通報。
秘密警察、もとい村のおばさん達が、ハイエナの様に寮に続々と集まって来る。
三十分後、リコルドの嫁はハイエナ達に何重にも取り巻かれ、容赦ない取り調べを受けていた。
「おい、彼女はあんたらと違ってカタギなんだ。あんまり、無茶しないでやってくれ」
もちろん、好奇心に飢えたハイエナ達はリコルドの言う事など無視して、本能の赴くままに尋問を続行する。
リコルドの心配をよそに、結婚を間近に控えたルーチェは幸せそうな顔をして、ハイエナ達に大量の情報をたれ流していた。
「お久し振りです、リコルドさん。ご結婚おめでとうございます」
色々諦めた表情のリコルドに、ギィが声を掛けた。
「久し振りだな、ギィ。センガじいさんの話をしたら、どうしても挨拶しておきたいと言うんでな。連れて来たらこの有様だ。まだ、じいさんの顔も拝んでねえってのによ」
「棺は管理人室にあります。遺体は逃げませんから、騒ぎが収まった後で、ゆっくりと会ってあげて下さい」
「ああ、そうさせてもらう」
ハイエナ達が獲物を解放するのは、もうしばらく後の事になりそうな気配であった。




