◆8◆
「さて、お前らの住居についても考えなくちゃならん。とりあえず、あの青いビニールシートで作ったテントに住むのはやめい」
センガは議題を道場の設計案から、門下生達の住居事情へと切り替えた。
「それじゃ、俺達は住む場所が無くなっちまう」
「そうだ、そうだ。立ち退きに反対」
「当局の横暴を許すな」
「誰が当局じゃ。リアル過ぎて嫌な気分になるから、そういう冗談もやめい。村の人に掛け合って、山から近い所に宿泊所を建ててやるから、そこに住め」
「山の中じゃダメなのか?」
「道場だけならともかく、多人数の生活の為のインフラを用意するのが難しい。門下生が増えれば、増築もせにゃならん。なら、最初から平地に建てた方がいい。それに何より、お前らの社会性も考慮する必要があるしの」
「何だそりゃ」
「こんな人間社会と隔絶した山の中でずっと暮らしてると、いつか頭がおかしくなるぞ、と言うことじゃ。早い話、ヴォーンみたいになってもいいのか?」
そう言われて門下生達は、互いに顔を見合わせて、
「確かにあそこまで行くと嫌だな」
普段、自分達の師匠をどの様に思っているかを、如実に示す発言をした。
「じゃろ? 加えて、今のお前らのあり方についても問題がある。どこかよそから集まって来た得体の知れない連中が、山に籠って何か怪しげな事をしとるなんてのは、村の人からも、かなり気味悪がられとるんじゃないかの。武芸者は生来不器用じゃから、無理に愛想良くしろとまでは言わんが、せめて姿を人前に晒して生活せい」
「しかし、急にそんな建物の用意は出来ねえだろ。それまでは、あそこのテントで生活しなきゃならねえ」
「できるだけ早く掛け合って土地だけ確保し、とりあえずはプレハブ小屋を建てるつもりじゃ。ビニールシートのテントよりは快適じゃろ。いつでも移動出来る様に、荷物をまとめておけ」
この様な具合で、あれよあれよと言う間に話が進み、門下生達にも、これから生活ががらりと変わるのだ、という実感が徐々に湧いて来た。
男はいくつになっても、少年の心を持った生き物である。
各々の胸の内で、野外に自分達の秘密基地を作って遊んでいた少年時代の気持ちが、鮮やかによみがえった。
ああしたらどうだろう、こうもしてみたい。
色々な思いつきが、これから作られる新しい自分達の住みかに対して、いくつもいくつも飛び出して来る。
「とりあえず、銃がいるな。外部から敵がやって来た時の為に」
「バズーカは必需品だろう。どう考えても」
「空からの備えも必要だな。レーダー付けようぜ、パラボラアンテナがくるくる回る奴」
「いつの時代だよ。それより地対空ミサイルをだな」
「お前ら、いい加減にせい」
センガは、そんな門下生達の荒唐無稽な妄想を、一喝して笑い飛ばした。
男はいくつになっても、少年の心を持った生き物である。
「少年」と書いて「バカ」とも読む。