表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
逃げ足道場 外伝 ~昔々、山奥の道場で~  作者: 真宵 駆
◆第一章◆ 仙人の眠る場所
7/634

◆6◆

 ヴォーンと一時間程話をした後、センガ老人とギィ青年はプレハブ小屋を出て、門下生達が鍛錬をしている所までやって来た。


「おーい、みんな、ちょっと手を休めて、ワシの話を聞いてくれんかの」


 老人が大声で言うと、門下生達は各々の怪しげな動作を止めて、そちらを注目した。


「ワシの名はセンガ・イー。今日から、ヴォーン道場の門下生じゃ。以後よろしく頼むぞ」


 それを聞いた、いずれもそれなりにヤバそうな武芸者の風貌をした門下生達が、わらわらと無言で集まって来る。


 路地裏で怖い人達が一般人を囲んで脅し上げる様な感じで、二人の周囲に群がり、


「打撃系か? 組技系か?」

「流派は? どこの道場だ?」

「ここに乗り込んで来るからには、腕に相当な自信があるんだろうな?」


 センガ老人を無視して、ギィ青年に一斉に質問を浴びせ始めた。


「おいこら、お前ら人の話はちゃんと聞け。入門したのはワシの方じゃ。そいつはただの従者じゃ」


 門下生達は質問をやめて、抗議するセンガの方に視線を移した。


 枯れ木を寄せ集めて作った小さな民芸品の様なこの老人を、頭のてっぺんから足の先まで、疑わしげにじろじろと見てから、彼等の一人がギィに向かって、


「兄ちゃん、もしかしてこのじいさん、かなりボケてんのか?」


 嘲笑や挑発でなく、心底心配する様な口調でそう聞いた。


「誰がボケ老人じゃ。失敬な奴め。少しばかり年はとっておるが、まだまだお前らに負けはせん。どうじゃ、ワシと一手勝負するか?」


 センガが自信たっぷりな様子で言うと、


「やっぱりボケてるな。こりゃ、兄ちゃんも大変だな」


 ものすごく憐れまれてしまった。


「いえ、違う、そういう、訳では」


 たどたどしい言葉を並べて反論しようとするギィを、センガは制し、


「もういい。こいつらに何を言っても、無駄な様な気がしてきた。ボケ老人でも何でも好きな様に呼べ。そんな事より、大事な話があるんじゃがの」


「じいさん、あんまり長くやられると、修行の邪魔なんだが」


「修行か。お前ら、こんな修行をやりに、わざわざここまで来た訳じゃなかろう」


「どういう意味だ?」


「『勇者』ヴォーンに弟子入りを決心した時、まさか、こんな何も無い山奥に放置されるとは思わなかったじゃろう、と言う事じゃ」


「ああ、ヴォーンから話を聞いたのか。確かに期待外れだったよ」

「ここに来ても、大半はすぐにやめて帰っちまう。だが、俺達は諦めが悪い方なんでな」

「山籠りも悪かねえ。武芸だけに集中出来るからな」


 そう言う門下生達に対して、センガ老人は頭を横に振り、


「お前ら、詐欺に遭っても気付かないタイプじゃな」


「何だと。しかし言われてみれば、確かに道場詐欺だな、ヴォーンの野郎」


「これこれ、仮にも師を野郎呼ばわりするな。師は師でも詐欺師かも知れんがの。まあ、ワシはそんなお前達に、良い話を持ってきた。ここに屋根のある稽古場を建ててやろうと言うのじゃが、どうじゃ?」


「そりゃ、あれば助かるが」


「費用は全部ワシが出す。既にヴォーンに許可は取ってある。そこで、どんな稽古場にしたいのか、お前らの意見も聞きたい」


「マジか、その話」


「大真面目じゃ」


 センガは、近くに落ちていた棒切れを拾い上げ、地面に線を引き始める。


「こんな感じで、道場主の住居と稽古場を別々に建て、間を渡り廊下でつなぐ。別々にするのは、改築も別々に出来るからじゃ。稽古場の方は門下生の数によっては、広くする必要も出て来るからのう」


 門下生達は、センガの話に少し興味を惹かれ始めた。


「山籠りも結構。しかし、碌なトレーニング機器も無い状況では、色々やり辛かろう。お前らだって、サンドバッグとかあった方がいいじゃろ?」


 サンドバッグと言う単語に、門下生達が反応して、ピクッとなる。


「他にもベンチプレス一式」


 ピクッ。


「各種ダンベル」


 ピクッ。


「打撃用のミット」


 ピクッ。


「投げ技用のマット」


 ピクッ。


 こうしてトレーニング用具の名前を羅列するだけで、センガは徐々に門下生達を話の虜にしていった。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ