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逃げ足道場 外伝 ~昔々、山奥の道場で~  作者: 真宵 駆
◆第三章◆ 夢が思い出に変わるまで

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◆10-22◆

「私も熊、じゃなくてレットさんには、本当に幸せになって欲しいと願っています。前にも言いましたが、ここに在籍していた人達の大半が、現在、幸せとは言い難い状況ですから」


 シェルシェのコメントを受けてアリッサは、そう言って軽くため息をつく。


「悲しい現実ですね。門下生の方々を追跡調査した結果に、それは顕著に表れています」


 「勇者」ヴォーンの娘アリッサの強さについて興味を抱いたシェルシェが、その生い立ちを知るべく、かつて山奥の道場に関係した人達の話を聞く所から始まった調査であったが、気が付けば、アリッサのみならず、ヴォーン、クリス、センガ、ギィ、熊、リコルド、サダ、リーガ、ギュルテル、その他、当時在籍していた門下生達についての、多岐に亘る膨大な調査になってしまっていた。


 その調査結果には、それまでアリッサも知らなかった事実が、多々含まれており、


「シェルシェさんのおかげで、多くの人達のその後を知る事が出来て、感謝しています。それにしても、これだけ調べるのには、さぞや時間と費用が掛かったんじゃないでしょうか」


「ふふふ、アリッサさんの事を調べている内に、気が付けば私もすっかり、この山奥の道場の魅力に取り憑かれてしまった様です。今も調査は続行中ですが、まだまだ物足りません」


「深入りすると危険ですよ、シェルシェさん。そういうのを、『ミイラ取りがミイラになる』、って言うんです」


「ふふふ、ヴァプロスさんの言葉ではありませんが、十年前にこの道場に来たかった、と悔やまれてなりません」


「目を覚ましてください。他ならぬ当主であるシェルシェさんが、こんな辺鄙な田舎に入り浸ってしまったら、マントノン家の未来はどうなります」 


「その辺りも含めて、是非、センガさんには色々と教えて頂きたかったです。多くの門下生を抱える武芸の名門の長老に、お聞きしたかった事はたくさんありますから」


「シェルシェさんがセンガさんと会ったら、名門の経営トップ同士、さぞやビジネスめいた話で盛り上がったでしょうね。私も一応経営者ですが、多分ついていけない位に」


「ふふふ。ですが今となっては、それも叶わぬ夢です。センガさんは、かつてこう仰っていたそうですね。『「時間」は絶対的に人を分かつ』、と」


「ええ。『「時間」の中で、多くの出会いがあり、多くの別れもある』、とも」


「センガさん風に言うならば、例えば、レットさんはゲルンさんと同じ『時間』の中にいたから出会えた訳です」


「出会ってから仕留められるまで、やたら長かったですけどね。同じ『時間』の中で逃げ回ってましたから」


 シェルシェとアリッサは笑い合う。


 ゲルンに仕留められた後もなお、オチ要員としての熊の使い勝手は最高であった。

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