◆59◆
「自分の墓を立てるんだって? 近い内にくたばるのか、じいさん」
「いよいよ年貢の納め時か」
「葬式の日取りが決まったら教えてくれ。その日は予定を空けとく」
墓の話を聞いた門下生達が、寮の食堂でセンガ老人に、罰当たりな暴言の数々を吐いた。
「馬鹿もんが。まったく、ここにおるのは、揃いも揃って悪い子ばかりじゃな。三歳児から人生やり直して来い」
晩酌中のセンガが、苦笑しながらそれらに言い返す。
「三歳のアリッサでさえ、『おじいちゃん、ながいきして』、と優しい言葉を掛けてくれたんじゃぞ。それなのに、その何倍も生きとるお前らは、言うに事欠いて、『いよいよ年貢の納め時か』じゃと? 老人に向かって言って良い事と悪い事の区別位わきまえんかい」
「普通の老人には間違っても言わねえよ。だが、じいさんは普通じゃねえからな。普通の老人は素手で瓶切りなんか出来ねえし。しかし、生きてる内に墓を立てるなんて、相当変わってるな」
「聞かなかったか? ワシらの国では縁起がいいんじゃ。長寿をもたらすと言われとる」
「俺達の感覚だと、逆に縁起悪そうなんだがな。墓に呼ばれるんじゃないかって気がする」
「はっはっは。まあ、縁起云々は後付けじゃな。要は、『先々の事に備えておいて損はない』、という事じゃ。人間いつ死ぬか分からん。急死すると、死んだ奴はいいが、残された者達に大変な負担がかかる。
「自分の『死』なんてのは、誰しもが考えたくないもんじゃ。じゃから、ついつい思案が後回しになる。それゆえ、『長寿をもたらす』などと甘言で釣って、いざと言う時の備えを促すのじゃよ。
「これは年寄りに限った事ではない。お前らだって、明日確実に生きとる保証なんかどこにも無いんじゃ。特に武芸者なんて稼業をやっておるとの」
「カタギより怪我する確率は高いな、確かに」
「下手をすると、囃し立てているお前らの方が、ワシより先に逝く事になる可能性だってなきにしもあらずじゃ」
「あり得るな。何しろ、じいさんは死神に見放されてる様なもんだから」
一同が陽気に笑った。
しかし、この時笑っていた門下生達の内数人は、センガ老人より先に死亡する事になるのである。
後年、その事実を知ったセンガは、
「馬鹿もんが。本当に先に逝く奴があるか」
沈痛な面持ちでため息をつき、
「しかし、これも運命かのう。そいつばかりは、どうにもならん」
その門下生達の、在りし日の屈託ない笑顔を思い出しながら嘆いた。




