表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
逃げ足道場 外伝 ~昔々、山奥の道場で~  作者: 真宵 駆
◆第一章◆ 仙人の眠る場所
6/634

◆5◆

 センガ老人は旅行鞄から、「処方薬」と書かれた、大きな白い陶器の徳利を取り出した。


「文字はアレじゃが、中身は中々の高級酒じゃ。一杯やらんか?」


「申し訳ありませんが、私は酒をやりませんので」


 ヴォーンはにべもなく断った。


「なんじゃ下戸か。こいつと同じじゃのう。従者も呑んべぇじゃと、旅先で主従共に酔い潰れて危険じゃによって、あえて呑めない人間を選んだんじゃよ」


 センガは、ギィ青年を指差して言う。


「温かい麦茶なら、すぐ用意出来ますが」


「じゃ、それを頂こうかの」


 ヴォーンは、小さい食器棚から湯呑茶碗を三つ取り出し、魔法瓶から麦茶を注いで、ちゃぶ台に置いた。


「にしても、道場と言っても野天道場じゃったとはの。しかも、道場主たるお前さんが、全く指導をしてないと聞いたが」


「この山全体が道場です。それと我が道場では、門下生の自主性を重んじる方針を採用しています」


「聞こえはいいが、要は単なるほっぽらかしじゃな。まあ、そういうのも嫌いじゃないが」


 センガは麦茶を一口飲んで、


「あれでは、お前さんの武名に憧れて集まった門下生達が、ちと可哀想じゃないかの。ただの隠遁生活が目的じゃったら、何故、道場なんぞ開いた?」


「こんな山奥の僻地なら、道場を開いても誰も入門しに来ないだろうと、高を括っていたもので。それでも結局来てしまいましたが」


「お前は職業安定所のダミー求人か。しかしまあ、確かにここは、隠遁するには持って来いの閑静な場所じゃな」


 センガは窓から外を見た。生い茂る木々の緑がすぐ目に入る。少し考えた後で、


「決めた。ワシもここに入門する」


 そう言うセンガを、ギィ青年が驚いた顔で見た。しかしヴォーンは顔色一つ変えず、


「どうぞ、ご自由に」


「月謝はいくらじゃ?」


「払えるだけで結構です」


「物納でも構わんか?」


「構いません」


「ならばワシの月謝は『道場』そのものじゃ。ここに本格的なのを建ててやる」


 ギィは益々驚いて、これには流石に度肝を抜かれるかと、ヴォーンの方を見れば、


「それは面白いですね。では、どんな道場にしましょう」


 まるで、日曜大工で犬小屋でも制作するかの様な、軽い調子だった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ