◆4◆
「プレハブ小屋が見えるだろ? あそこにヴォーンが住んでるんだ」
そう言って若者が指差す先に、妙に真新しくてモダンで安っぽい作りの小屋が建っていた。その外観は、それ一つで周囲の自然の景観をぶち壊すのに、十分な破壊力を持っていた。
「門下生も門下生なら、師も師じゃな。せっかくの大自然にそぐわぬ事ばかり、狙った様にやりおる」
老人は呆れた様に言う。
「おーい、先生、いるかい?」
小屋の前まで来ると、若者が先に立って声を掛け、ドアを乱暴に叩いた。
「何か用か?」
中から男の声がする。
「あんたに会いたいって人が来てんだけどよお、入っていいかい?」
「ドアは開いている。勝手に入ってくれ」
「だ、そうだ。じゃ、じいさん達、俺はここで失礼するぜ。稽古に行って来る」
「ああ、ありがとよ。おかげで助かった」
「ありがと、ございました」
老人と青年の礼の言葉を後に、若者は、先程の門下生達が、怪しげな鍛錬をしている場所へと戻って行った。
「さて、噂の『勇者』ヴォーンとは、どんな人物じゃろうかの。あやつの話では、まるで野良猫みたいな男との事じゃったが」
老人は気を取り直して、青年が開けたドアから、小屋の中を覗き込んだ。
ところで、飼い主の注目を集めたいのか、暖かさがちょうど良いのか、猫の中にはテレビの上を好むものが少なくない。
何故そんな事を、その時の老人が思ったのかと言うと、奥に置かれた大型テレビの上に、男がそんな感じで腹ばいに乗っかっている姿が目に入ったからである。
「そのまんま猫かい!」
老人が思わず突っ込んだ。
「失礼、リモコンをテレビの後に落としてしまったので」
そう言って、男はもぞもぞやった後、どうにか拾い上げる事に成功したリモコンを老人に示して見せた。
「紛らわしいやっちゃな。大体、こんな山奥に電気が来とるのか?」
「LPガスで動く発電機があるので大丈夫です。ニュースを見る間だけ動かしています」
「あのポコポコポコポコうるさい奴か。はぁ、お前さん達は、この大自然に喧嘩を売りに来とるらしいな」
「ここで騒音を立てても、近所迷惑にはなりませんから」
「電気が必要なら、こんな山奥でなく、最初から村の集落に住む方が早くないか? まあ、そんな事はどうでも良い。ワシはお前さんと話がしたくて、ここまで来たのじゃ。上がらせてもらうぞ」
「どうぞ。靴はそこで脱いで下さい」
そう言って、男は壁に立てかけてあったちゃぶ台を横に倒し、それを囲むように三人が座った。
「自己紹介が遅れたの。ワシの名はセンガ・イー、こいつは従者のギィ・ボンじゃ。最初に断っておくと、どっちも偽名じゃ。訳あって、本名は名乗れぬのでな」
「私の名はヴォーン・スルーです。ここの道場主をやっております」
「なんじゃ、ワシらが正体を隠す理由は、興味無しか」
「何か問題でも?」
「いや、まあ、その方が話が早くて助かるが」
センガ老人は、会って間もないこのヴォーンと言う男に、早くも自分のリズムを狂わされている様な、不思議な感覚に陥っていた。
ぶっちゃけ、絡み辛い。




