◆36◆
薄暗い古びた廃山荘を、パンの詰まった段ボール箱を抱えて無表情で歩き回り、行く先々で会う人間を蹴り倒して行く「勇者」ヴォーン。その行動は、もはや勇者と言うより、ホラー映画に出て来る殺人鬼に近いものがあった。
そのヴォーンが、対策本部で見せられた廃山荘の見取り図に従い、今度は食堂までやって来る。
食堂には三人の男がいた。各々、銃をテーブルに放り出し、その代わりにザントから押収したと思しき三節棍とトンファーを持って、何か組手の真似事をしている。
「誰だ?」
両手に持ったトンファーをくるくる回していた男が、ヴォーンに気付く。
「ポールの代理でパンを持って来た。食堂に運べと言われたんだが」
ヴォーンがしれっと返答する。
「いや、食糧は一旦裏の倉庫に入れて置くんだ。そっちへ持って行ってくれ」
男がトンファーを振って、外へ出ろと指示する。ところが、別の男が、
「待て、その前にこっちへ来て、箱の中を見せろ」
そう言って、手にした三節棍を招く様に振った。
「パンしか入ってないが」
「いいから来い」
ヴォーンが食堂の中央まで来ると、トンファーを持った男二人と三節棍を持った男一人が近寄って来て、箱の中を覗き込んだ。
ヴォーンは、まず自分から見て右側の、トンファーを持った男の左脇腹を、素早く蹴り込む。
うっ、と呻き声を上げ、苦悶の表情で倒れるトンファー男に驚く間も無く、次の瞬間には、正面にいた三節棍男の左脇腹が蹴り込まれる。
二人の異変に気付いたもう一人のトンファー男が、かろうじてヴォーンから逃れる事が出来たのは、三節棍男がうまく盾になる様に倒れてくれたからだった。
トンファー男は無様な格好で何歩か後ずさり、左手のトンファーで前面を防御しつつ、右手のトンファーを頭上に振り上げる。
ヴォーンは箱を持ったまま、男の方へゆっくりと近付いて行く。
怯えた男は、振り上げたトンファーを、ヴォーンの頭めがけて勢い良く振り下ろす。
が、トンファーは手からすっぽ抜けて、あさっての方向に飛んで行った。
男が絶望の表情を浮かべた瞬間、ヴォーンはその右側面に素早く密着し、膝蹴りを腹にぶち込んだ。
教訓その三。
武器は慣れたものを使おう。
でも、三節棍とかトンファーに憧れる気持ちは分からないでもない。




