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興奮状態のヴェレを何とか落ち着かせてから、クリスはヴォーンに相談し、ヴォーンは道場に来ていたセンガ老人にこの件を丸投げした。
そんな訳で、センガは居間でヴェレとちゃぶ台を挟んで話し合う事になった。
「事情は大体分かった。じゃがのう、男が一度大望を抱いて決心したからには、相当の覚悟があっての事じゃ。説得するのは容易な事ではないぞ」
落ち着き払ったセンガに対し、
「じゃあ、私と子供はどうなるんですか。その大望とやらには妻子を捨てるだけの価値があるんですか。そんなの勝手過ぎるじゃないですか。夫を返して下さい、今すぐ」
ヴェレが猛然と食って掛かる。
「返せも何も、まだここへ来とらん。まあ、お聞きなされ。男が熱狂的な何かに取り憑かれて、家族の忠告を聞かずに暴走するなんてのは、世間じゃ良くある話じゃ。熱が冷めん内は、何を言っても無駄じゃ。ま、これは男に限った事でなく、周囲の反対を押し切って恋愛結婚に持ち込もうとする、若い娘さんにも良く見られる現象じゃがの」
「クリス、このおじいさんに、私とザントの結婚の経緯を教えたの?」
ヴェレはきょとんとして、少し離れて見ていたクリスに問い質した。
「教えてないわ」
クリスは首を横に振る。
「はっはっは、お前さん自身がやらかしておったか。似た者夫婦じゃのう。そんな時は反対されればされる程強情になる、と、自分でも分かるじゃろ」
「それはそれ、これはこれです。純粋で一途な女の決心と、男の身勝手な一時の妄想を一緒にしないでください」
「同じ物じゃよ。自分にとって利となるか害となるか、それだけの違いじゃ。まあ、そういきり立ちなさんな。旦那とて、妻子の事は気に掛かっておる筈じゃ。そこに問題解決のカギがある。どうじゃ、旦那をしばらくここに入門させてみては?」
「私はそれを阻止する為にここに来たんです!」
「目的が達成されない内は、旦那の熱は冷めんぞ。じゃが一度入門してしまえば、時が経つにつれ、今度はお前さんや子供の事を思い出す様になる。それによって当初の熱も冷めていき、色々と考えた末、やがて妥協に至る。『武芸は趣味として続けていけば良い。まずは妻子の事を考えなければ』とかの」
「入門してどの位で妥協に至るんです?」
「それは分からん。早くて一ヶ月、長くて数年」
「それじゃ困ります。何とか三日位で妥協してください」
「お前の旦那の決意はプレハブ小屋並か」
センガは呆れた様に言う。




