第十八話:村を見て回ろう
「あちらは今現在建設中の、新家屋です」
「わぁ、皆働いてて偉いね」
太陽は少し朝寄りの位置、季節は前回起きた時同様春だと、神パワーが告げている。
そんな中、右の肩に乗るアオノの案内の下、ネヨウは村を回っていた。
まず初めに訪れたのが新住居の建設現場。
そこでは多くのエルフたちと聖獣たちが木材を扱って仕事をしていた。
大きな体を生かして物を運んでいる聖獣や、聖法というやつだろうか、中には風を起こして物を運ぶ者もいる。
「ちゃんと仲良くやれてるんだ~」
エルフと聖獣、他種族同士だが、見るととても仲睦まじく作業を行えている。
「もう千年の付き合いですからね~」
「それもそっか」
ネヨウの思っているより、千年は長い時間だったようだ。
「あ、女神様じゃないっすか!」
「本当だ、沈黙の女神様~!」
遠くから眺めていたが、誰かがネヨウたちに気づき、そこから伝播して大勢の人たちが手を振ってくれる。
(こういう時は手を振り返した方が良いのかな?)
偉い人ならこういう時はそうするだろう。
「(手を小さく振り返す)」
「うおお! 女神さまが微笑んで手を振り返してくれたぞ!」
「眼福です」
「期待されてるってことだな、よし早く完成させるぞ~」
「士気を上げてくださりありがとうございます」
「いや、ちょっと手を振っただけだけど」
ネヨウからしたら本当にそれだけ。
だけど周囲は捉え方が違うらしい。
何度もこの落差に振り回されているネヨウ。もうこれは自然現象のようなものと捉えるべきなのかもしれない。
「ネヨウ様が私たちにもたらした影響は多大なるものなのです、もっと誇ってしかるべきです」
「うーん」
でも、どれもこれもルーラからのもので、何とも言えない。
(あぁ、僕は「大して努力もしてないのに煽てられるのは違う」と思ってるんだな~)
「ネヨウ、ナヤミゴト?」
ネヨウが黙ったのを見かねたのか、スヤスヤが尋ねてきた。
「ううん、そんなに悩みじゃないよ~」
こういうのは突き詰めると自己嫌悪に陥る、これ以上は置いておこう。
それに一応、この結果は前世の善行のお陰ではあるのだ。
あれ? 努力はしていた?
「ここは商店区域です」
「おお~」
道中色んなエルフや聖獣たちとすれ違い、その度に驚きや感謝をされながらも、次に来たのは小さな商店区域。
見渡すと、人々に料理を提供している飲食店のようなものが二店ほど、他に、屋内作業なのか外に人が居ない店が数店とある。
「今、外でお料理を提供しているのは【一店屋】と【またおいで屋】。一店屋はお店というものを初めて考案した方が経営をしています。またおいで屋は店主の穏やかさが良いと、多くの者から愛されています」
「へいお持ち!」
「来た来た、これがすっごくうめぇんだ!」
「俺の分は!」
「もうちょっとお待ち!」
「一店屋と勝負してみてよ、この料理なら勝てるって!」
「勝負なんてなぁ……生憎とうちはあれと張り合うためにやっているわけじゃないからな~」
「へー」
遠くからだが、どちらの店も随分と料理で盛り上がっているのが聴こえてくる。
「二店とも、料理は狩ってきた素材と引き換え、もしくは何かと物々交換で提供をしておられるようです」
物々交換。
貨幣制度はまだ無いらしい。時代だ。
「お食べになられますか?」
「いや、今は良いかな~、僕は食べなくても大丈夫だし」
それに味覚的には前世のものに慣れすぎてこの時代のものは合わなそう。
まぁ、もう数億年前の味覚で体感的にはあまり覚えていないのだけど。
「そうですか、ではお次は屋内のお店を紹介します」
ネヨウの右肩にいるアオノは、右の羽を上げて一つの木造建築物を指し示した。
「近頃人気のお店、【沈黙屋】です」
「沈黙屋……」
沈黙と言えば自分の二つ名であったなとネヨウは思った。
「主に寝具を取り扱っています」
「じゃあそのお店に入ろう」
寝具を取り扱っている。その言葉だけでネヨウにとっては行く理由になる。
アオノの返事も聞かず、ネヨウは沈黙屋目指して歩き始める。
「流石、眠りがお好きなネヨウ様ですね」
「寝具については色々考えてたから~」
単純に気になるし、綿花とかその他植物性の布についても尋ねたい。
「店主さんお邪魔します」
「あら……って女神様!?」
「どうも、女神とかやってます」
「え、えーとご用件は……?」
入って早々店主と思われる、赤髪ボブヘアの若い女性に驚かれた、だがお店をやっているだけあり、すぐさま彼女は接客モードに。
ネヨウは周囲を見渡す。入ってから気が付いたが中は広く、様々な品物が置かれていた。
白い布、刺繍の入った布と皮、色が染まっている布も数枚。
布を売っているだけかと思いきや、木材、いや寝台と思われる物も置いてある。
「ふむふむ」
なるほど。
(枕発見——)
でもちょっとペラペラ過ぎる。
(あそこに掛けてるのは敷布団?……うーむ)
「あ、あの何か気に障るものが?」
「うーん、でも仕方ないかな~」
「ネヨウ様、大丈夫ですか?」
「あ、ごめん」
思わず考え込んでしまった。
店主さんに視線を戻す、店主さんは物凄く不安そうな目をしてこちらを見ていた。
「店主さん言いたいこと言っちゃっていい?」
「え……な、なんなりとぉ……」
何故か酷く怯えた様子の店主。
そんなに険しい顔をしてたかな? とネヨウは自分の頬を手で上げ下げしてみた。
「えーっとね」
良く頑張ってるけど、枕ペラペラ過ぎる、敷布団も薄い、マットレスは無いのか。
そんなネガティブだらけの感想を言いそうになって、ふとネヨウは止まった。
(いや、僕は何様なのってお話)
いつも寝ているだけじゃないか。
神だと崇められて、少し調子に乗っていたのかもしれない。前世の感覚を今の技術が発展していない世界に持ってくるものじゃないだろう。
きっとこの世界、この時代でもそれ相応に、頑張って作ってくれているんだから。
(それに僕がまともにアドバイスできるわけじゃないし)
もう一度見てみる。
枕はペラペラだけど、多分綿みたいなものは入ってる、中に入れているものが出ないようにしっかりと四方を縫い合わせている。
敷布団も同様で、あの大きさのものの中に綿を入れるのは大変だっただろう。それでも見た感じ、膨らみはある。
寝台だってしっかり用意している。
技術が発達していない中でこれは凄いのではないだろうか。
「うん、よくできてるね~」
「あ、ありがとうございます!」
「あなたならもっと良くできると思うから、これからも期待してるね」
店主さんはエルフで長寿、だからこれからもどんどん勝手に改善していくでしょう。
「あと、植物から繊維が採れるの知ってる?」
「はい、ちょうどそういった植物を見つけ、最近植物性の糸で、寝具の制作をし始めました!」
「そうなんだ~」
なんだ、知っているじゃないか。
思ったよりも自分の介入の余地がなく、嬉しいような寂しいような。
でもここらの植物はネヨウの影響によって栄えている。そう考えると既に介入しているということになるのかも。
ともかく、植物繊維については聞けたし、早いけどそろそろお暇するとしよう。
「ごめんね、急にお邪魔して、寝具見るの楽しかったよ~」
「こちらこそ、女神さまと話せるなんて光栄でした……!」
「あ、そうだあなたの名前は?」
寝具を作るお店となるとしばらく関係を持ちそうだと思い、ネヨウは尋ねた。
「な、名前ですか?……ミカと言います!」
赤のボブヘア、緑眼の女性店主もといミカは、最初こそ戸惑っていたが元気よく名前を宣言してくれた。
「ミカさんね、また来る」
「あ、またのご来店お待ちしています!」
「平和そうで良かった~」
あの後ネヨウは、他の店を少し覗いた。
聖法で食料を冷やし、売っているお店や、鍬や包丁など様々な道具を売っているお店なんかもあった。
今日見ただけでも村の平穏、そしてその平穏を皆が守っているということが分かった気がする。
「今日は案内ありがとうねアオノ」
「こちらこそ、こうしてネヨウ様との一時を過ごせてとても楽しかったです」
日は傾いて、そろそろ暗くなってくる頃だ。
今日は皆働いていたのか、アオノ以外と行動することが無かった。道中すれ違うことは多かったけど。
「神殿に戻って寝よう」
「そうしましょう」
「うーん、おやすみ……」
そうしてネヨウはまた、眠りについた。
ちなみに眠る前に、植物繊維が採れる草花をちょっと生やしておいた。
これでミカの寝具製作も捗るだろう。是非ともそれで新しい寝具を作って欲しいものだ。
おやすみ。




