公国編入
共和国に激震が走った。女神が帝国との境界線で、自ら炊き出しをしているというのだ。
「今すぐ兵を送れ!」と魔王派が叫ぶ。「いや、役人を送って目的を訊ねろ」と女神派が返す。
「女神様から使者が派遣されてきました」
と、役人が駆け込んできた。
女神王国領の勇者だ。彼は議会場の演壇に案内されて、演説を求められる。
女神様から渡された親書の中身を話す。
「偉大にして良き友へ。私は女神王国領の女神であり、現在閣下の国を訪問する勇者のアルコバレーノによってこの公式書簡をお送りする物であります……女神王国領憲法と法律は、他国の宗教的政治的問題に対するいかなる干渉も禁じています……」
「私は勇者アルコバレーノに対して、閣下の領土の平穏を動揺させかねないいかなる行為も慎むよう特に命じております……」
議会場がどよめく。
「これは…」「やはり女神か」「そんな簡単に信じていいのか」
「女神王国領の勇者の顔を見てみろ」
「あんなに麗しい勇者のいる王国の女神だぞ」
赤毛の一人の男が声を上げた。
「女神王国領の使者殿!」
「女神王国領では食料が豊富だと聞きます」
と続ける。
「あなた方はその食料をもってして国を奪いに来たのか?」
アルコバレーノが落ち着いた口調で答えた。
「この国は今女神派と魔王派で争っていると聞きました。私達はこの食糧を持って被災者を救いに来ただけです」
「慈悲深い女神様は、共和国が割れて難民が出ていることを酷く憂いています」
「女神様は自ら平和を求めて共和国と帝国の境界線にある難民キャンプを訪れています」
「どうか、無駄な争いは辞めてください。女神様が女神様でも魔王でも、世界の平和を願っております」
「……以上です」
拍手がパラパラと鳴り出すと、それは大きなうねりとなって盛大な拍手に変わっていく。
共和国大統領プレジデンテが女神王国領の使者アルコバレーノに熱烈なハグをする。
プレジデンテが言った。
「皆さん、魔王国……いえ、女神王国領とこれからは平和を築いていきましょう。私達はこれからは足りないものを補える国として切磋琢磨していきましょう」
プレジデンテの話に、議会場は拍手で答える。一部の人間は苦い顔をしていた。戦争特需を得て来た人間達だ。
そもそも魔王国のエルフと違い、人間は世代が度々変わる為、敵は魔王国なりと煽って来た軍需物資商人達がいる。彼らはそこで利益を得て富豪に成り上がり、議員になることで共和国を支配してきた。
しかし、今回はやり過ぎた。女神王国領と帝国がやり合う中で得るはずだった利益を得られず、更には内戦にしてしまった。内戦でも得る物はあったが、失うものの方が大きかった。
当然、戦争特需で成り上がった議員達は他の議員に比べて力を持っていたが、それを快く思っていない人間はたくさんいた。
「終戦だー!」
「号外だー!号外を出せー!」
議会場に詰めてた記者が騒ぐ。
『戦争終結、お隣の魔王様は女神様だった!』
難民キャンプに詰めていた記者。
『難民キャンプで直接炊き出し、女神様は本物だった』
記者は炎の魔法で紙に王女様の姿を焼き付ける。
食べる物が無い人達は難民キャンプへと向かい、余裕のある者は炊き出しを各地で行った。
こうして女神様は本物の女神様になる。
号外は南の王国、東の公国まで届く。
こうして難民が女神王国領に流れた結果、女神王国領が最大規模の人口を誇る国になった。
※※※
世界樹頂上、女神の城。
女神様のところへは、女神王国領へと流れた村の村長達が連日の面会に来ていた。
「この度は女神様のご厚意で我が村人を受け入れて頂きありがとうございます」
「困っている時は助け合う、それが我が女神領の国是ですわ。何か困っている時は、構わずに相談に来てください」
「はい。ありがとうございます」
女神様の横に警備という体で立っている僕。
文官が僕に耳打ちする。
僕は女神様に耳打ちした。
「女神様、次で終わりらしいですが、最後の相手が……」
「分かりました。丁度良いので話をしましょう」
「最後は公国のオロ公爵殿下です」
「あらあら、まあまあ、これは大変な御方じゃないの? なぜ最後に回したの?」
「は、私は最後でよいと自ら申し出があったので」
「公爵殿下これは失礼を」
女神様が立ち上がり頭を下げる。
「いや、よいのです。私から最後にしてもらえるよう頼んだのですから」
そこに「伏してお願いします」と続ける。
「公国を女神王国領に編入してください」
「公国は長い戦争で疲弊しきっています。女神様の慈悲を頂きたい。食料を輸入するお金もありません。ですので、女神様に食糧を分けて頂きたいのです」
「それは構いませんが、別に公国を編入する必要はありませんよ」
「え?」
「東の共和国にも、南の帝国にも食糧はタダで配っています。公国だけお金を取ったりは致しません」
「それじゃあ、無料で頂けるのですか?」
「はい。困っている人がいるなら助けよ。情けは人の為ならずと申しております」
「公国の公爵として感謝申し上げます」
「いいえ、困った時はお互い様です」
「ですが、女神王国領には編入を希望します」
きょとんとする女神様。
「もはや我が国は食糧難と長い戦争で一揆まで起こり、国民の心は既に公国から離れております。女神様のお力をお貸しして頂きたいのです」
「分かりました。そうであるなら編入を認めましょう。これにより、長きに渡る戦争も終わり、女神王国領からは人を派遣して治安維持、食糧の配給を進めて参ります」
涙を流す公爵。
「ありがとうございます女神様」
「よいのですよ」
※※※
「公国の支援は僕が行きましょうか」
「いいえ、公国の支援には私も行きます」
「実際に姿を見せなければ信用されません。これは今回共和国で起こったことで証明されました」
「では、今回も一緒に参りましょう」
「ええ」
僕らは今回も女神様と共に向かうことを決めた。
西の公国に着くと、そこは地獄だった。
スラムには人が溢れ、出元のわからない肉が売られていた。子どもたちは大人に怯え、子ども達で集まり身を守っていた。
女神様はスラムに入ると、すぐに炊き出しの準備を始める。
フリフリのエプロン姿で具材を切っていく。料理は共和国の時と同様にカレーだ。出来たそばからカレーが無くなっていく。
僕らは急いで次を作っていく。食糧の搬入が遅れたり、列が崩れて抜いた抜かないの話を治めたり、色んなハプニングがあったが、スラムの子どもや女性たちが協力してくれて、誰一人省くことなく配給ができた。その時に、スラムのおばちゃんたちを雇い、長期的に日に2回の配給が出来るようにした。
ついでに傷病軍人達の怪我や病気をエリクサーで治して回った。
※※※
城で公爵が女神様に膝をついて出迎えた。
「部下はどこですか?」
「部下には見捨てられました。部下は今南の王国に身を寄せています。今の城には官僚と私以外に人はおりません」
公爵は語る。
「私の部下は私に不信感を持って国から出ていきました……私の不甲斐なさのせいで」
女神様は公爵を責めることなく、公爵を褒めた。
「部下が裏切ってでも、国民を守る為に女神王国領に編入を選んだのでしょう。きっと私には真似できませんわ。あなたの英断を無駄にすることはありません。私が女神として保証します」
こうして女神様は三つの国と和平を結んだ。公国領の部下が南の王国に避難したことは知らなかったが、王国内での戦争派は勢いを増してくるかもしれない。フォルマーレ王女に全てかかっていると思うが、フォルマーレ王女は戦争反対派だろう。王国がどう出てくるのか、これから目が離せない。




