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エメラルド・アイ ~サイボーグ少女の復讐劇  作者: mf
第三章 野望と崩壊
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20 脱出

「人間にこんな力を与えた自分を恨むのね」


 裕美は自分の意識をシルバー・アイから学園のコンソール・ルームにいる自分に戻した。


〈爆破まで後三分です〉


「博士、全ては終わりました。私も博士のところへ行きます」


 裕美は小さな鍵のついたペンダントを首から外した。その鍵は裕美の自爆装置を作動させる鍵となっていた。


 裕美はそっと目をつむり、手にした鍵を後頭部の髪の毛に隠された挿入口に差し込んだ。


「さよなら、智也君」


 !


 しかし、何も起きなかった。


 裕美は目を開けた。


『裕美』


 その時、裕美の頭の中で声がした。


「博士?」


『残念だが、君の自爆装置は作動しない。なぜなら、君の体内に爆弾はないのだから』

 八十神の声が言った。


「そんな――」


『今の私の声は、君が自爆装置を作動させようとした時、君の頭の中に流れるようになっている。君がこの声を聞いていると言うことは、私は既にこの世にはいないのだろう。裕美には黙っていたが、智也君に撃たれた時、私は君の体内から自爆装置を取り外した。』


「そんな、どうして……」


『私の身勝手かもしれないが、君には生きていて欲しい。命の続く限り。君は機械なんかじゃない、人間だ。そして、私が香奈子と同じくらい愛している女性だ。だから、君には幸せになって欲しい。それが私の最後の願いだ』


 八十神の声が消えた。


「今更、生きてたって……」

 裕美は考え込んだ。


〈爆破まで後二分です〉


 警告アナウンスを聞いて、裕美は決心を固めた。


「死ぬのは後で考えよう」


 裕美はコンピューターにアクセスしてドアのロックを全て解除し、エレベーターを稼働にした。

 そして、裕美は穴の開いたドアをくぐりぬけ、通路に出た。


 裕美は通路を駆ける。途中、来る時には見えなかった扉がいくつも開いていた。それらの部屋は研究室や手術室であった。


 ドアが開いたことで各部屋から科学者らしい白衣を着た人間たちが次々と出てくる。その数は二十人あまりいた。


 科学者たちはエレベーターの前に群がっている。


 裕美はエレベーターから二十メートル手前で足を止めた。


 そういえば、博士が言っていた。黒須は、科学者が裏切らないように彼らの体内に爆弾を取付けているって。


 裕美はとっさに近くの研究室に飛び込んだ。


 同時にエレベーターで科学者たちが一斉に爆発した。裕美の入った研究室の入口は瓦礫で塞がれてしまう。


「ちっ……」

 裕美は舌打ちした。


「誰か、助けて」


 どこからか女の声がした。


「誰かいるの!」

 裕美は大きな声で言った。


「ここです」


 声は下の方から聞こえる。


「これは」


 床にハッチの扉がある。

 裕美は扉の取っ手をつかんで、力を入れると、扉が持ち上がった。


 扉の下には地下へ続く階段があった。

 階段を降りていくと、五つの狭い牢屋が並んでいた。


 その一つの牢に学校の制服を着た少女が閉じ込められていた。


「お願いです、助けて下さい」

 少女は裕美を見るなり、牢の鉄格子につかまって言った。


「あなたは――」


「私、黒川久美と言います」

 少女は泣きそうな顔になっていた。


「鉄格子から離れて」


「は、はい」


 裕美は鉄格子をつかむと、強引に外してしまった。


「す、すごい力…」

 久美は呆然としていた。


「行くわよ」


 裕美はさっさと階段を上っていった。久美も慌ててついていく。


「何が起こってるんですか?」


「もうすぐここは崩れるわ」


「それじゃあ、早く逃げないと」


「入口は塞がれてるわ」

 裕美は入口を指差した。


「そんな……せっかく、牢から出られたのに」


「あなた、誘拐されてきたんでしょ。どうやって連れてこられたかわかる?」


「わかりません。体育館の裏で襲われて、その後、気づいたら、牢の中でしたから」


「そう……」


「でも、一度牢から出されて、ここで身体検査を受けたことがあるんです。その時、確かゴミを――」


「ゴミ?」


「はい」

 久美は壁に近寄ると、取っ手を前に引いた。「確かここにゴミ袋を捨てていました」


「それだわ。入るわよ」


「は、入るんですか」


「嫌なら残っているのね」

 裕美はダストシューターに足から入った。


〈爆破まで後一分です〉


「ま、待って下さい」

 久美は慌ててダストシューターに飛び込んだ。


「思った通り、ここはベルトコンベアーでゴミを集積場所へ運んでいるのよ」


 裕美はベルトコンベアーの進む方向へ向かって駆け出した。

 久美も裕美の後を追いかける。


 しばらくして、大型のエレベーターにたどり着いた。


「これで何とかなる」

 裕美は手動でエレベーターを起動させた。


 エレベーターがゆっくりと上昇する。


〈爆破開始します〉


 大きな爆発が研究施設の方向で起こった。地下全体が激しく揺れる。


「た、助かるんですよね」


「止まらないことを祈るのね」


 やがて、エレベーターが地上に出て、止まった。


 そこは倉庫の中のようであった。


「着いたわ」

 久美が喜んで、エレベーターを降りた。


 その時だった。一発の弾丸が久美の額に命中した。久美は無言のまま、後ろに倒れる。


「久美さん!」

 裕美が声を上げた。


「ちっ、しくじった」

 サイレンサー付きの銃を持った少女が舌打ちをした。


「バカなことを!パワー・セーブ、オフ」


 裕美はハイ・パワー・モードになると、エレベーターを飛び出し、少女に襲いかかった。

 少女は拳銃を裕美に向かって乱射する。しかし、弾丸は裕美を包むエネルギーコートによって次々と消滅する。


「そんな…」


 次の瞬間、裕美の拳が少女の胸を貫通した。少女もサイボーグであった。


「強い……」

 少女はそう言い残して、仰向けに倒れた。


「パワー・セーブ、オン」

 裕美の髪と瞳が黒に戻り、エネルギーコートがなくなった。


 裕美は久美のそばにそっと歩み寄る。


「……」

 裕美は額から血を流している死んでいる久美の頬に手を当てた。


 頬が冷たい。


 裕美ははっとした。その時、突然、久美が目を開けた。久美は裕美の首を両手でぐっと絞めた。


「ぐっ!」


「待っていたのよ、この時を。死ねっ!」

 久美は両手に力を込めた。


 声が出せない。


「しゃべれなければ、パワー・セーブをオフにできまい。このまま、首の骨をへし折ってやる」


「うっ」

 裕美は久美の手を外そうとしたが、力が思うように出せない。


 久美は立ち上がり、裕美を持ち上げた。


「私は世界最強のサイボーグ、マゼンダ・アイよ」

 久美の目が光った。


 くっ。


 裕美の生命の危険レベルは一気に四にまで達していた。


 このままじゃ、自爆だ。


『パワー・セーブ、オフ』


 どこからか裕美の声が聞こえてきた。


「なにっ」

 久美は周囲を見回した。


 裕美の髪と瞳がエメラルド色に変化し、体にエネルギーコートが張られた。


「うわあぁぁ」


 裕美の首を絞め上げていた久美の両手がドロドロに溶け始めた。

 裕美は地面に着地する。


「な、なぜ」

 両手を失った久美が後ずさった。


「こいつだよ」


 倉庫の入口に智也が立っていた。彼の手には携帯型音声再生機が握られている。


「智也君」


「八十神が持たせてくれたんだ」


「うぬぬ、こうなったら道連れだ」


 久美は裕美に体当たりを敢行した。


「無駄よ」


 裕美は久美に回し蹴りをみまった。

 久美は数メートル吹っ飛ばされ、そのままエレベーターに激突し爆発した。

 爆風が裕美に吹きつける。


「パワー・セーブ、オン」


 裕美は元の姿に戻った。


「ありがとう。助かったわ」

 裕美は智也の方を向いた。


「あいつを死なせちまったからな。これぐらい、当然だよ」


「……どうして私がここにいると?」


「あいつが残していったバッグにおまえの居場所を知らせる探知機と音声再生機、それと手紙があった」


「そう」


「全く最後までかっこつけやがって。むかつくよ、あいつ」

 智也の目には涙がたまっていた。


「本当、むかつくね」


「黒須は倒せたのか?」


「ええ。これで全てが終わり。後は警察に任せるわ」


「これからどうするんだ?」


「もう生きてる理由もないわ」


「八十神が死んだからか」


「そうよ」


「何でも八十神なんだな。八十神の言うことだったら、何でも聞くのかよ」


「もちろん」


「八十神が生きろって言ったら、生きるのか?」


「博士が言うならね」


「だったら、死ぬなよ。八十神の手紙にこれからは自分の人生を生きろって書いてあったぞ」


「嘘ね」


「本当さ」


「手紙を見せて」

 裕美は手を出した。


「途中で落としちまった」

 智也は目を伏せて、言った。


「それじゃあ、確認できないわね」


 裕美は倉庫の出入口に向かって、歩きだした。


「裕美!」

 智也は裕美の背中に向かって、叫んだ。「俺、おまえがいなくなるの、やだよ。サイボーグだからなんだって言うんだよ。一緒にいたいよ、おまえと一緒にいたいんだよ!」


「智也君」

 裕美は振り向かずに立ち止まった。「自分で恥ずかしいと思わない、そんな台詞、口にして」


「今、言わなかったら、いつ言うんだよ」


「明日も明後日もあるじゃない」


「裕美……」


「手紙、探さなきゃ。死ぬのはそれから」

 裕美は再び歩きだした。


「裕美」

 智也は笑顔になって、裕美を追いかける。


「今日は家に泊まっていけよ。一つ、部屋があいてるんだ」


「私、寝相が悪いの。家、壊れるかもよ」


「大丈夫さ。昔、喜美子がベッドから落ちても、床に穴一つあかなかった」


「それなら安心ね」


 裕美と智也は二人並んで、薄暗い倉庫を後にした。



《完》

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