7 教室
「智也の奴……」
喜美子は机の上で頬杖をつきながら、呟いた。
ここは桜華高校二年D組の教室である。時間は経過して、翌朝となっていた。
まだ朝のホームルームが始まるまでには十分ほど時間がある。
「どうしたの、ぼんやりして」
喜美子の机の前の椅子に内田春美が座った。
春美は喜美子のクラスメイトで、親しい友人の一人である。
「ちょっと心配事があってね」
「智也のこと?」
「まあ、そんなとこかな」
「喜美子も大変よね。あんな問題児を弟に持って」
「そういう言い方しないで。あいつはあいつでいいところがあるんだから」
「喜美子だって普段、智也のこと、めちゃくちゃ言ってるじゃない」
「あたしはいいの。姉弟なんだから」
「勝手ね」
「うっさいわね。目障りだから、どっか行きなさいよ」
喜美子は追い払うように手を振った。
「はいはい」
春美はそう言って、席を離れた。
「全くイライラするわ」
喜美子は、今朝の自宅での智也との会話を思い出していた。
☆ ☆ ☆
「弘田さんと家にいるぅ?!」
喜美子は大きな声を上げた。
「ああ」
「学校はどうするの?」
「こんな時に学校なんて行ってられるか」
「学校なんかってね、あんまりサボってばっかりいると、進級できなくなるわよ」
「弘田さん一人、家に置いていくわけにいかねえだろ。大体、俺たちがいない時に親父が家に帰ってきたらどうするんだよ」
「それはそうだけど」
「昨日の連中が万が一襲ってくるとも限らないし」
「だったら、あたしが弘田さんと一緒にいるわ。だから、智也はちゃんと学校へ行きなさい」
「やだね。おまえじゃ、彼女を守れないだろ。何せ拳銃にびびって弘田さんを追い出そうとしたぐらいだからな」
☆ ☆ ☆
うー、むかつくぅ。
喜美子は心の中で腹を立てていた。
「喜美子、喜美子」
「ん?」
喜美子が我に返ると、春美がいた。
「なぁに?」
喜美子は面倒くさそうな口調で言った。
「喜美子に用があるって子が来てるわ」
「どこにいるの?」
「外の廊下で待ってるって」
「誰かしら」
喜美子は席を立って、教室を出た。
「あら、あなたは?」
廊下で待っていたのは裕美であった。制服は昨日と違い桜華高校の制服となっていた。
「昨日はどうも。久坂君はいますか?」
「智也は休み」
「そうですか。失礼しました」
「ねえ」
「はい?」
「一度、聞こうと思ってたんだけど、転校生のあなたがどうしてうちの学校の失踪事件のこと、詳しく知ってるの?」
「新聞に載ってました」
「新聞には山名さんが図書委員だってことまでは出てないはずよ。もちろん、雑誌にだってね」
「……」
その時、チャイムが鳴った。
「もう授業ですね。失礼します」
「あ、あのねぇ」
喜美子が追いかける暇もなく、裕美は立ち去ってしまった。




