【もう一人の転生者】
マリアが誕生日を迎えた。
「鈴木さんもついに四十路かあ」
「アラフォーって言いなさいよっ」
「ついこの前までアラフォーって言うと怒ったくせに」
「乙女心は複雑なのよ」
こんなやり取り前にもやったよね。
「それよりさあ。いい加減前世の年齢を累積するのヤメにしない。ほら。私は永遠の十七歳、それで解決」
『おいおい』
!!!
思わずマリアと顔を見合わせる。声のしたほうを振り返るとクララが寝てた。正確には眠ってはいないようだ。
「ねえ、クララ。ひょっとしてだけど貴女、日本人転生者?」
こらこら、そこで視線を逸らすな。
「って言うか私たち日本語でしゃべってたのよねえ?」
とは鈴木さんの追撃。この一言で観念したのかようやくクララの正体が分かった。とは言え魂は前世のものでも肉体的にはまだ三歳児。というより脳が未発達なんで心で思ってる事をうまく言語化できない様子。
しょうがないんでなるべく簡単に答えられる質問を重ねていく。一時間にも満たない質疑でも幼児の脳には負担が大きかったのかクララは今は眠ってしまっている。
「んで、分かった事を整理すると……」
「まずクララの前世は中村さん。転生ショップ『トランスファ』を利用したのが二十一歳の時」
「ショップ開業二十五周年記念ガチャだっけ?」
「ヒロインの娘に確定で転生、しかも格安ってさあ。梅パックでヒロイン引いた鈴木さんといい、なんで一番高いガチャ引いた私が悪役令嬢なのよ」
「まあまあ。ガチャってそういうモノだから」
まあそれは今さらだ。話を戻そう。
「それで転生してみたらまさかの胎児だった、と」
「私が産んだ子の意識を上書きしちゃったんじゃなくて安心したわ」
「それはそうだね。それで本来なら父親ポジのところに私がいたから驚いた、と」
「そりゃあねえ。父親の代わりに悪役令嬢が出てきたらたいてい驚くわよ。どうりで田中さんに抱かせると大泣きしたわけだわ」
「つまり鈴木さんが悪い」
「なんでよぅ」
一週間後。
「それでさあ中村さん。クララを王太子の婚約者にって話があるんだけどどうする?」
「経験者として言わせてもらえばあんまりお薦めはできないかなあ。現代日本で大人になった精神性と貴族のボンボンの若造じゃ意識が違い過ぎて幻滅するから」
どうやらイマイチって気分らしい。
「あ、あとさあ。記念ガチャで現代日本の物を持ち込めたって言うじゃない。何持ってきたの??」
『まさか胎児に転生するとは思ってなかったからちゃんと動作するか分からない』って断った後、アイテムボックスから出てきたのはタブレット端末だった。中身は電子百科事典やら各種専門書の電子書籍がメインだという。それとソーラーチャージャーとモバイル充電器。
「これっ!すごいよ!!アイテムボックスの中は時間が流れてないから普段はしまっておけばかなり長い期間使えると思う」
「これは中村さんが持ってきたものだから貴女が自分の道を切り開くために使ったほうがいいわ。そこの悪役令嬢が使いたがったら少しは見せてあげて貸しにするといいわよ」
こらっちょっと待て。
「でも本音ではちょっと見せて欲しいんでしょ?」
ぐぬぬ。
「ま、まあそれはあるけどね。でもそれは中村さんのものだからさ。あー、知識だけあってもそれを具現化するのはまた別の話だからね。何か物を作りたいなら相談乗るわよ」
「それは……そうね、力借りたほうがいいわよ。この人、転生した時は十歳で独力で職人探し当てて事業起こしてるから」
◇
その夜。
「中村さんの代わりって言ったら可哀そうだけど、王太子の婚約者はやっぱり私が産んだ子よりもエリザベス様が産んだ子のほうが説得力あると思うの」
「うん。それは分かるけど、私はなんで押し倒されてるのかな??」
「もうわかってるクセに……」
そう言って強引に唇を奪いに来るマリア。まあ……今さらしょうがないか(呆)
「あのさあ?田中さん??」
「ん?なあに?」
「クララの代わりの婚約者ならエリザベス様が産めばいいと思うの?なんかしたでしょ?」
「さあ。それより、ピロートークにしては色気がない、って言わないのね?」
そして一週間後。
「なんで私まで妊娠してるのよ?」
「ふふふ。オワコンな乙ゲーヒロインよりも、今や私は誰もが認める女神様。いつまでもやられっぱなしじゃないのよ?」
「はあ。まーた腹違いの双子かあ。まあ田中さんの子なら喜んで産むけどさ」
「あまーい。スイーート。一体いつから双子だと勘違いしていた?」
「え?」
「マリアのお腹の中には二人いるから。『倍返しだっ!』ってやつ。だから腹違いの三つ子が正解」
そうしてみるみる内に私とマリアのお腹は大きくなっていき、二か月で臨月になった。まあ私の魔力が強くなってる分、初産の時よりも育ちが早いよね。
『なんで二か月で子ども産まれるのよ(意訳)』とは中村さんの感想だけど、『アンタ作るのだって三か月だったよ?』とマリアに返されて微妙な顔をしてたね。とても三歳児のする顔じゃなかった、とだけ言っておく。
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