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78話 解放された猫

 ルインスから聞いた話では、アタシの雇い主は前から悪事に手を染めており、違法な奴隷商ともつながりを持っていたそうだ。

 あの女もこの男たちも騎士で、奴隷商を辿っていくうちにアタシの雇い主である貴族家にたどり着き、証拠を集めて、この街の領主と協力し、昨日のうちに取り潰したそうだ。


「じゃあ、アタシの家族は!?」

「捕まっていた人たちはみんな保護したっすよ。ミャリアちゃんのご家族がその中にいるなら、多分、副団長が」


 ルインスの言葉を聞き終わる前に、アタシの体は部屋から出ようと動いていた。


「止まりなさい。どこへ行くつもりですか?」


 部屋から出たところで、あの女が目の前に現れた。


「あっ、アタシの家族は!?」

「落ち着きなさい。あなたの家族なら保護しました。今、治療中ですが、命に別状はないとのことです」

「……っ、ありがとうございます」


 アタシは力が抜け、その場に崩れ落ちた。


「残っている問題はあなただけです」

「はい。あのっ、アタシを殺す前に家族に一度合わせてもらえませんか?」


 アタシはこの女を殺そうとしたのだ。

 できれば家族に会って無事を確かめたいが、すぐに殺されても仕方がない。

 今のアタシでは天地がひっくり返っても敵わないことは、昨日の戦闘からも分かりきっている。


「何を勘違いしているのか分かりませんが、あなたを殺すつもりはありませんよ」

「えっ……」

「付いてきなさい」

「はい」


 アタシは立ち上がり、言われた通り、黙って女の後に付いていく。




「ここです」


 連れられてきた場所は人目に付かない倉庫だった。


(ああ。やっぱり、ここで殺されるのか)


 そう思って中に入ると、


「んんん、ぐぐぐっ」


 口を塞がれ、糸で全身を縛られ、虫のように地面で這い回っている男がいた。


「ダミアン・グラモール!」


 その男はアタシの雇い主だった。

 アタシはルインスの話が本当だったことを確信した。


「さて、この子との契約を破棄しなさい」

「んんんぐ……はっ、ミャリア! 分かっているな。今すぐにこの女を殺れ! ぐっ」

「余計なことは喋らないように」


 自由に喋れるようになったダミアンがアタシに命令した瞬間、女はその頭を床に叩きつける。


(待って。今、アタシとの契約って言った? 本当にアタシを殺すつもりじゃないの?)


「貴様、私にこんなことをしてただで済むと思うなよ。何をしているミャリア! 早く、しろ!! お前のことを最も評価しているのは私だ! 私こそがお前の主だ!」


 その言葉を聞いた瞬間、今まで押し込めていた怒りがアタシの中から溢れ出る。


「お前なんかが主だと? ふざけるなっ! 人の弱みに付け込み、家族を人質にして、誰かを利用することしか考えない! そんな奴が人の上に立てると思うな!」

「な、なんだとっ! 下等なけも……ぐはっ」

「黙りなさい。一方が死ねば、契約が解除されることは当然知っていますよね? あなたに残された選択肢は二つです。この場で苦痛と共に死ぬか、大人しく裁きを待つかのどちらか。貴族でありながら、『王家の魔法』を私的に悪用したあなたに、余罪を含めて生き延びる道はないでしょう」

「私に脅しが通用……あああああ!」


 女が短剣を突き刺し、ダミアンは苦痛の声を上げる。


「早く彼女を解放しなさい」

「はあ……はあ……わ、分かった! 契約を破棄する……!」


 その瞬間、アタシとダミアンの体から光があふれ、すぐに消えた。

 これで、ダミアンにとって一方的に有利だった契約は消滅した。


「これであなたはもう自由です」

「えっ、あっ、えっ」


 立て続けに起こる出来事に、まるで夢を見ているような気分になるが、アタシの自慢の嗅覚が確かに現実だと告げている。


「ぐうっ……その血に塗れた獣を救って、正義者にでもなったつもりか? 貴様らのやっていることは何ら私と変わらんぞ」

「正義かどうかを決めるのは、私たちの仕事ではありません。“正義を語る”余裕をつくるために、それを邪魔するものは排除します。

 それに私には、家族のために必死に戦場で剣を振り、生き抜いてきた彼女の剣筋は、美しく透き通って見えました。死線をくぐったこともなく、表面だけしか見ようとしないあなたには、“彼女の美しさ”が理解できないのでしょう」


 その言葉を聞いた瞬間、アタシの目から涙がこぼれ落ちるのを感じた。

 初めて、自分の歩んできた道を誰かに認めてもらえた気がした。


「……」


 ダミアンは何も言わず、そのまま気を失った。


「あっ、ありがとうございました! アタシはミャリアって言います! 良ければお名前をお聞きしても良いですか?」

「私はサターシャ・スロウ、フロスト騎士団の副団長を任されています。ミャリア、先ほども言ったようにあなたは見どころがあります。自由になって、まだ行く先が決まっていないのなら、私のもとで働きませんか?」


 サターシャ・スロウ。アタシはこの人にもっと認めてもらいたい。

 そして、いつかこの日の恩を返したい。


「ぜひ、お願いしますニャ!」




 *****




「二人とも今日から同じ騎士見習いとして働いてもらいます。まずは、二人で仕事を覚えるように」


 まだ年齢的に騎士にはなれないということで、騎士見習いとして雑用から始めることになった。

 そして、もう一人、性別は分からないが、アタシよりも小さく幼い人族の子供が騎士見習いになった。


「ちびっ子、名前は?」

「……」

「無視するな。名前は?」

「うるせえ。他人と慣れ合うつもりはねえ」


 なんて生意気なガキだ。

 その子供の第一印象はそんな感じだった。

 ただ、生意気だと感じつつも、どこか自分と重なるものを感じた。


「おまえ、オレとたたかえ」


 その子は雑用が終わると、毎回のようにアタシに戦いを挑んできた。


「生意気」

「……クソッ」


 だが、そんな子供にアタシが負けるはずもなく、子供の気が済むまで戦い、全て勝った。


「副団長、あの子は一体何なんですか?」


 何を聞いても答えないし、名前すら教えようとしない。

 そのくせ、仕事はきちんとやるし、一方的に戦いを挑んでくる。

 気になったアタシは副団長に尋ねた。


「あの子は奴隷商に捕まっていたところを自力で抜け出し、それを私が保護しました。私も名前は知りません。あなたなら、彼女の心を開けるのではと思いましたが、どうですか?」

「彼女ってことは女の子なんですかニャ?」

「そうですよ」


 そうか。あの子に自分と重なるものを感じたのは、アタシと同じような境遇だったからか。

 あの子は昔のアタシなんだ。


「任せてください!」


 そう思ったら、自然と口に出ていた。


「オレとたたかえ」

「分かったニャ。その代わり、アタシが勝ったら名前を教えなさい」

「……いやだ」

「なら、アタシも戦わないニャ。一生アタシが勝ったままね」

「……わかった」


 この勝負もアタシが勝った。


「名前を教えなさい」

「なんで……聞きたい?」

「あなたと友達になりたいから。同じ見習い同士、仲良くやるニャ」


 子供は何やら深く考えた後、ゆっくり口を開いた。


「……ラフィ」

「ラフィね! アタシはミャリア。これからよろしくニャ!」


 これがアタシにとっての騎士の始まりだ。




 *****




「そんな壮絶な過去があったんですね!」

「ミャリア先輩もラフィも、今とは印象が違いますわね」

「アタシは今も昔も変わらないニャ。ラフィは大分違うけど」

「ふんっ、ミャリアの方が昔より肉付きも良くなって、変わってるぜ」

「あー、気にしてるのに酷いニャ! 許さないニャ」


 ミャリアさんの話はかなりマイルドになっていたが、それでも壮絶さが伝わってきた。

 ルインスが昔、奴隷の扱いは酷いものだったと言っていたのが、少しだけわかった気がする。


「ちょっ、お二人とも喧嘩はやめてください」


 また喧嘩を始めたミャリアさんとラフィを見て、リオネルは慌てるが、これもまた二人の仲の良さなんだろう。


「皆さん、そろそろ着きますよ」


 シルヴァさんが操縦席から声をかける。


「やっと休めるな」


 今のところ中央への旅は順調だ。


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