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76話 パーティー、そして旅立ち

時間が一気に飛びます。

 気付けば季節はもう冬だ。

 今年も色々なことがあったが、成長を実感できる一年だった。

 商売に関しては、ロゼ・クラウンを続けることができた。

 レシピの開発は料理人のモリスとフィオナとたまにやっているが、俺たちの店を真似するところも増え、アブドラハでも甘味の文化が発展しようとしている。

 軍部魔法学園に行くにあたって、事業を広げることはできなかったが、まだオープンしてから一年半程度。今はあれこれ手を広げるよりも、着実に土台を固めるので十分だ。


 それに俺だって、学園に遊びに行くわけじゃない。

 学園のことを調べるうちに、商売関連であれこれ思いついたことがある。

 思いつきが上手く行くかは実際に行ってみないと分からないが、それも楽しみだ。


 成長の部分で言ったら精神面の方が大きい。

 俺のこれまでの行動は決して高尚な理由から始まったものじゃない。

 行動の結果が周りのためになっていると信じたいが、その根底にあるのは、自分自身を認めたい、そして後悔したくないという想いだ。

 結局のところ、俺がしていることは、自分自身のためなんだ。


 今、こうやって将来を悲観せず、逆に楽しみになってきたのは、俺の大事な家族、仲間、関わってくれているみんなのおかげだと思う。

 もっと心に余裕を持つことができて、自分の行動が自分のためではなく、“みんなのため”に本当の意味で変われるように頑張ろうと思う。


 そんな決意を胸に、俺はロゼ・クラウンの中に入る。




 *****




「モリス、ファルク、ガロン、おめでとう!」

『ありがとうございます』


 この三人は、俺が初めて雇った奴隷達だ。

 モリスは料理人として、ファルクとガロンは畑の管理人として、普段から働いてくれている。

 そして、奴隷という身分も今日までだ。

 俺が三人からお金を受け取った瞬間、俺を含めた全員の体から光が溢れ、すぐに何事もなかったように消えていった。

 これで奴隷契約は終了ということだろう。

 本当はファルクとガロンの方が早くにお金の方は貯まっていたが、一緒に暮らすうちに仲良くなったモリスを待っていたようだ。


「ほ、本当にこれで」

「おじいちゃん、今の……」


 三人とも呆然としている。

 奴隷になってからはずっと不安を抱えていたはずで、それが一瞬にして解放されたのだから無理もない。


「ああ。これで自由だよ」


 ようやく実感が湧いてきたのか、ファルクやガロンは泣き、モリスも目に涙をにじませている。

 みんなでひとしきり喜び、余韻に浸っているのを見守った後、俺は声をかける。


「じゃあ、みんなで準備しようか」




 *****




「これでどうでしょうか?」

「ティアが来てくれて助かったよ」

「助かりました」

「ええ。素晴らしいです」


 俺とファルク、ガロンの三人で店内の飾りつけをしていたが、予想以上に難しく、時間がかかっていた。

 そんな時、経理の仕事を早々に終わらせた救世主、ティアが登場し、即座に指示を出してくれた。そのおかげで、見事に飾りつけが完成した。


 わざわざ店を飾り付ける理由はただ一つ、今日は身内でパーティーを開こうと呼びかけていたのだ。

 というのも、奴隷解放について、何かしら祝いたいというのは前から考えていた。

 本人たちから了承をもらい、なぜか祝われる側のはずなのに、準備は自分たちでやりたいと言われたので、俺も一緒になって準備をしているところだ。モリスはフィオナと一緒に振る舞う料理を作っている。

 こうやって、みんなで準備するのも楽しいものだ。


「あの、クラウ様」

「どうした?」


 ファルクが声をかけてきた。


「ボクたち、これからもここで働いてもいいんでしょうか?」

「もちろん、俺としては大歓迎だよ」

「ワオーン!!」

「うわっ!?」

「しっ、失礼しました。これからもよろしくお願いします!」

「うん。よろしく」


 奴隷から解放されるというのはあくまでも第一歩で、彼らにもこれから先の人生がある。寂しい気持ちはあるが、辞めたいなら無理に強いるつもりはないし、続けてくれるなら、今まで以上の待遇で迎えるつもりだ。

 今のところ、みんな奴隷から解放されても働いてくれるみたいだけど、働きたいと思ってもらえる環境整備は俺の仕事だと思っている。

 せっかく優秀な人材に育っても離れられたら困るっていう実利的な部分でも重要だ。


「あっ、ファルク、ガロンさん、おめでとう!」

「アミル君! ありがとう」

「ありがとうございます」


 アミルが店にやってきて、ファルクとガロンを見つけるなり、声をかけている。


「わー! 綺麗!」

「すごーい。いつもと違う!」


 続々とみんなが集まってきた。

 厨房からはおいしそうな料理の香りが漂っている。

 こういうイベントもたまにはいいものだ。




 *****




「モリスにはこれを。ガロンとファルクにはこれを」

「おーこれは! 素晴らしいですぞ。ありがとうございます」

「おや……素晴らしい一品。ありがとうございます」

「ありがとうございます!」


 パーティーも盛り上がり、俺はモリスには職人のガルダさんに作ってもらった包丁を、ガロンとファルクには、特注のブラシをプレゼントした。

 モリスについては言わずもがなだが、獣人たちはブラシにこだわりがあるらしく、ガロンとファルクを連れてガルダさんに注文をすることになった。本当は内緒で準備を進めたかったけれど、彼らの希望を直接聞くことにしたのは正解だった。

 三人とも、受け取ったものを手に取り、感触を確かめて喜んでいる。

 プレゼントを渡すとき、相手の笑顔を見るのは嬉しい。これからも、彼らと一緒にいい仕事をしていけたらと思う。



「クラウ、ちょっといいか?」

「うん?」


 俺がその様子を見て、満足していると、後ろからラフィが声をかけてきた。

 そのまま俺を引っ張ると、外へ連れ出す。


「なんだ?」

「はい、これ」


 ラフィから渡されたのは、作業用のグローブだった。


「え!? これ、くれるのか?」

「うん。着けてみて」


 突然のラフィからのプレゼントに驚いた。

 着けてみると、少しサイズは大きいが、使っていくうちに慣れるくらいの感覚だった。


「どう? カイ兄の手のサイズを測って作ってあるから」

「すごい! ほとんどぴったりで使いやすいよ! どうしたの?」

「今までのお礼」


 お礼を言われるようなことをしたか?

 ラフィには困った時に助けてもらってばかりでお礼を言うべきなのはこっちの方だ。


「ありがとう! 大事に使わせてもらうよ」

「うん」

「ラフィ、渡せたのね」


 シータはその様子を見ていたのか、店から出て話しかけてきた。


「クラウ君が氷を扱うのに手が冷えるかもしれないからって、ラフィが革職人さんに頼んで作ってもらったのよね。本当は自分で作りたかったみたいだけど」

「ちょっ、シータ姉、言わなくていいから!」

「そういうだったのか! 凄く嬉しいよ」


 寒さに耐性があると言っても、冷えないわけではない。

 プレゼントはあげて喜んでくれるのも嬉しいけど、もらう方も嬉しいと思った。



 ―――約1年後―――



「はい。お土産置いておくからな。あんまり長く持つ訳じゃないから、早くみんなに分けといてくれよ」

「分かっている」

「しばらく来れないと思うから、お土産もないぞ。欲しいなら騎士の誰かが来た時に頼んでくれ」

「分かっている! それに、人族の食べ物を気に入っているのは我ではないと言っているだろう!」


 あれから何度も海人の集落に来ているが、カリューは相変わらずだ。

 来るたびに俺の店の商品をお土産に持ってきていたら、海人たちもそれを気に入り、人族の食べ物に興味を示すようになった。


「帰ってきたらまた来るよ」

「別に、我らにとって数年程度大した時間ではない」


 最初はもっと海人族について知りたいと思って集落に来ていたわけだが、カリューは海人の中でも気難しい奴で、あまり知ることが出来なかった。

 分かったことと言えば、海人族の里が不毛の地になった時、海人の一部は里から離れ、残った者たちが主に秘宝を取り返そうと躍起になっていること、カリューはその里から離れた者の一部で、襲撃に際して声をかけられたから参加したということだけだ。カリューは他の海人が今どこにいるかも知らないようだ。

 この集落にも両方の海人がいるが、躍起になっている方の海人は壁を張って、なかなか心を開いてはくれないし、別の海人たちも同胞の邪魔はしたくないと中立の立場を貫いている。

 それでも、歩み寄れる日が来ることを願おう。


「挨拶は済んだっすか?」

「うん。行こう」


 俺は初めて来た時よりも広くなった建物から外に出る。




 *****




 大勢の見送り人がいる中で、俺たちは別れの言葉を交わす。


「バルドさん、来てくれたんですね」

「おう! クラウ、中央は商売のタネがいくらでもある。商人なら一度は行くべき場所だ。経験を積んでまた帰ってこいよ」

「はい!」

「俺の事業が上手く行けば、お前が帰ってくるころには、アブドラハが変わってるかもしれねえな」

「それはバルドさんが言うと、本当にそうなりそうで怖いです」

「気を付けて行ってこい」

「はい」


 マルハバ商会が奴隷を雇い始めてから、一年でアブドラハは少しずつ変わってきている。

 バルドさんがどんな事業を計画しているのか、気になるところだ。


「クラウ、気を付けてね」

「アミルも、お互い頑張ろうな」


 俺たちは色々話した後だ。

 これ以上言葉は必要ない。


「クラウ様、これを」

「すごい! ラフィみたいにナイフをもらうのかと思ったよ」

「クラウ様にはこちらの方が良いと思いましたが」

「流石サターシャだね。本当にありがとう」


 サターシャからは懐中時計をもらった。

 時計は全て職人が手作りするため、どうしても高価になる。

 すごい良いものをもらってしまった。


「ありゃ、自分も何か用意すればよかったっすね。あっ、酔い止めとかどうっすか?」

「もうその手には引っかからないよ。どうせ睡眠薬でしょ?」

「違うっすよ! 副団長も睨まないで! 自分の教えられることは教えました。後は必ず、生きて帰ってくるっすよ」

「うん。ルインス、今までありがとう。最高の指導者だったよ」

「……それなら良かったっす」


 サターシャに変わって、ルインスが指導することになった時は色々不安もあったが、今となっては感謝しかない。

 ルインスの教えがあったからこそ、今の俺があると思う。


「クラウ、行ってらっしゃい」

「健康には気を付けるのよ。それと、しっかり食事は摂ること。それから手紙は」

「分かってるって。大丈夫だよ。父さんも母さんも体に気を付けて」

「ううっ……行ってらっしゃい」

「行ってきます」


 ジョゼフ父さんもエリーラ母さんも俺の自慢の両親だ。

 二人には感謝してもしきれない。


「クラウ兄、行っちゃだめ!」


 リトは俺に張り付いて行かせないようにする。


「リト。これからはリトが俺の代わりに父さんと母さんを守るんだ。休みには帰ってくるから」

「……約束だよ?」

「ああ。約束だ」


 リトも成長した。我がままはたまに言うが、嫌いなものにも自分から取り組むようになったし、将来が楽しみだ。

 一通り言葉を交わし終わり、俺は馬車に近づく。


「お揃いですね。私が責任を持って皆様をお送りさせていただきます」


 シルヴァさんが荷馬車を運転してくれるみたいだ。

 乗るのは、俺、ラフィ、リオネル、レオノーラと、


「ちょっと待つニャ! 遅れてすみませんニャ」


 勢いよくミャリアさんが現れた。


「おせーぞ」

「ううっ、寝坊しました。ニャ!? どこからか、副団長に似た気配が」

「お前のことめちゃくちゃ睨んでるぞ」

「ひっ」


 うん、騒がしい旅になりそうだ。


物語を三部構成にしたらここで一部完結といったところでしょうか。

ルインスに関する話なんかも入れつつ、まだまだ物語は続きます。

ここまで読んでいただき、本当にありがとうございます。

皆さんの応援が物語を紡ぐ力になっています。

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