47話 フロスト騎士団の魔物掃討戦①
―――サターシャ視点―――
「これは想像以上ですね。まさか、三界のうちの一つを支配する巨獣王竜まで出てくるとは……」
300体を超える魔物が現れたとの報告を受け、騎士団は馬に乗り、現場へ駆けつけた。
仮の拠点を構え、しばらく待つと、悪夢のような景色が近づいてきた。
アブドラハの南には、高魔砂漠と呼ばれる広大な砂漠が存在する。
高魔砂漠には「砂海」「砂礫荒野」「砂嵐空域」と呼ばれる三つのエリア、いわゆる三界があり、各エリアにはその地を支配する最強種が君臨している。
今、三界の最強種のひとつである巨獣王竜が、大群の魔物を従え、アブドラハに向けて進撃してきているのだ。
無数の魔物が地平線を埋め尽くし、ざっと見ただけでも500、いや次から次へと溢れるように連なる後続を数に入れれば、下手をすれば1000以上の魔物の群れだ。
魔物の中には砂蛇や砂漠小鬼、砂魔蠍、空蜥蜴といった小型の魔物だけでなく、最強種とはいかないまでも、狂戦鬼や単眼魔鬼、砂海に住む砂蟲王、砂嵐空域でまれに遭遇する砂暴風竜の群れなど、各エリアの中型、大型魔物が大量にいる。
「初めて見るぜ! あれが『荒野の王』巨獣王竜か。ここからでも大きく見えるってことは下手すりゃ小さな山くらいはあるんじゃねえか? さすが最強種。どんな味がするんだろうな」
「馬鹿言うな。あれはまだ子供だぞ」
「まじかよ。親父はあれと戦ったことあるのか?」
「あの頃は俺も若造だった。戦ったのは親だったが、全く歯が立たずに撤退したぞ! はっはっは」
団長とその息子の料理番兼騎士のエリックが呑気に話している。
「団長でも無理ってやばいだろ」
「お肉一杯。楽しみ」
「あのデカやつは無理だからパスで」
「あんなに魔物が向かってくるニャんて! 巨獣王竜デカすぎニャ!!」
団員たちも相変わらずだ。
「誰かを追いかけている……?」
遠くではっきりとは見えなかったが、よく見ると魔物の群れの先頭を誰かが走り、後ろからそれを魔物たちが追いかけているようだ。
「あれ、射抜いてもいいですか?」
「待ちなさい。間違いなく敵ですが、万が一の可能性があります。それにあの馬鹿には聞きたいこともあるので。ここまで来てしまった以上、魔物は倒しきるしかないでしょう」
「了解です。じゃ、落とせそうなのから狙っていきます」
フロスト騎士団唯一の遠距離持ちであるジャビールにも見えていたようだ。
その言葉を合図に、次々に飛んでいる魔物を落としていく。
彼は風魔法使いで、得意とする武器は弓だ。
魔物の姿は地平線にうっすらと見える程度なのに、その矢は的確に飛んでいる魔物を貫いている。
「雷閃槍!!」
突然、上空からまばゆい雷光が発生し、轟音が鳴り響いた。
その雷は魔物の群れに突き刺さり、甚大な被害を与える。
「おやおや、どこぞの旅人かと思ったらフロスト騎士団ではないか。ここは貴様らの出番ではない。我々ボルティア軍に任せて下がりたまえ!」
そう高らかに叫びながら、上空から飛竜に乗った男が下がってきた。
「なんだ? 羽虫か。お前の羽音でよく聞こえんな」
「ああ。地虫の耳は遠いというが、本当だったようだな」
この男は、アブドラハにある軍部組織のリーダー、軍団長のエルネスト・ボルティアだ。
軍から飛竜の許可まで出るとは。
これで魔物は何とかなりそうだ。
「耳が遠い貴様には何度でも言うが、私は未だにルフェル家の一件を認めてはいないぞ。貴族たるものその責任を放棄し、あまつさえ私欲のために不正を働くなど言語道断。その子供を匿う貴様らも同様に処罰されるべきだ」
「そんな過去のことをねちねちとまだ言ってるのか? だからお前は未だに結婚もできないんだ。それに元はと言えばルフェル家は軍派閥の貴族だろ? 身内の失態を見抜けずによくものうのうとそんなことが言えるな」
「だからこそ、厳しい処罰をと言っているのが分からないか? 私が結婚できないだと?私には心に決めたサターシャ嬢がいるのだ。いずれ彼女の心を奪って見せるさ」
団長とエルネストがもう魔物も近くまで来ているというのに、みっともなく喧嘩を始めだした。
毎度のことだが、こいつらは本当に……。
「いい加減黙りなさい!!」
「さ、サターシャ嬢」
「言い争っている場合ではないでしょう。今はとにかく手が足りない状況。早く戻って部下たちに指示を与えなさい」
「承知しました。このエルネスト・ボルティアの活躍をぜひ見ていてくだされ」
エルネストは上空の飛竜隊を指揮するために上昇していった。
こんなことをしている間に、魔物の群れとの距離はかなり近づいた。
今ならかなりはっきりと先導している人物の姿が見える。
「我々狩猟団も加勢に来たぞ!」
大きな声がしてそちらの方を向くと、後ろから大量の狩猟団もやってきた。
連絡を受けてから狩猟組合の方へも要請を行っていたので、何とか短時間で人員を集めてくれたのだろう。
「団長は巨獣王竜の足止めを! 戦闘部隊はバッカスの指揮で周りの魔物を狩りなさい! ミャリアも戦闘部隊に入るように」
『はっ!』
「任せとけ! はっはっは」
騎士達がそれぞれの役割をこなすために散っていった。
「諸君、騎士団なんぞに遅れをとるな!」
空ではボルティア軍も陣形を整えて突撃を開始した。
「さて、私も業務を全うしましょう」
「止まりなさい」
私は騎士団や狩猟団、軍が魔物の侵攻を止めている間に、この事態を引き起こしたであろう人物へ近づいた。
その人物の耳付近にはヒレがついており、足には水でできた靴のようなものを履いている。
そして、その手には何やら大きな石を抱えているようだ。
なるほど。これが閣下のおっしゃっていた海人ですか。
「残念だがそれはできない相談だねえ。うちの使命はこれを持ったままアブドラハへ向かうことさ」
「そうですか。行かせませんよ」
「あたいは海人族最速のアクアラ。あんたは強そうだけど、あたいを捕まえるなんて無理。諦めな。波翔脚」
アクアラは地面を滑るようにとてつもない勢いで横を駆けていく。
「加減が難しいのですが仕方ありません。吸いなさい、吸血魔剣」
―――アクアラ視点―――
「さっきの女の殺気は凄かったけど、あたいには追いつけないよ」
あたいの役目はこの迷宮核を持って、高魔砂漠から大量の魔物をおびき寄せ、それをアブドラハまで連れてくることだ。
そうすれば、必然的にこちらにも人員を割かざるを得なくなる。
いくら原始の民である海人族でも、難しく危険な役割だが、どんな地形でも関係なく高速で移動できるあたいだからこそ可能な作戦だ。
あたいの水霊器は移動も得意な万能型。
波の力を使い、地形を選ばずに駆け回り、敵の攻撃をかわしながら素早く移動できる。
さらに、蹴り技を使えば、その瞬間に力強い波が生まれ、敵を圧倒する矛にもなる最強の力だ。
あいつの言っていた通り、迷宮核を魔物の近くまで持っていった途端、目の色を変えて襲ってきた。
まさか巨獣王竜の子供まで釣られてくるとは思わなかったが、さすが大迷宮の核。
迷宮核は魔物にとって存在を変化させるほどのごちそうだ、なんて言ってたけど、詳しいことはあたいには分からない。
あたいらの狙いはただ一つ、奪われた秘宝を取り返すこと。
それさえ叶うなら、悪魔と手を結んだって構わない。
「姫が注意するように言っていた騎士団も大したことないね」
振り返りはしなかったが、さっきの女からはもうかなりの距離を稼いだはずだ。
敵の中で私を見かけても、攻撃しようとする前にその射程から外れている。
「この匂いはなに?」
前に進みながら、どこからか嫌な匂いを感じた。
どこかに死体でもあるの?
「ううっ」
すると、後ろから肩を貫かれ、迷宮核を落してしまった。
一体どこから?
まさかと思い、後ろを見てみるが何もない。
とりあえず、もう一度迷宮核を拾おうとするが、そこには何もない。
「なにか探し物でも?」
「え?」
正面を見てみると、先ほどの女が行き先を塞ぎ、迷宮核を拾っていた。
「ひっ! あ、あんた、いつの間に!」
この匂いの正体は女からだ。
その女の目は深紅に染まっている。。
手にもっている赤黒い波型の短剣はまるで生きているかのようにゆらゆらと動いて見える。
女が動くたびに、その香りが強くなってくる。
これは、間違いない血の匂いだ。
「あなたに尋ねたいことはたくさんありますが、まず、これはどこで手に入れました?」
「波動脚十連波! はあああああ!!」
言葉に言い表せない恐怖心が心を支配する。
胸の奥から湧き上がる冷たい恐怖を振り払うかのように、私は全力で蹴りを放った。
「真理の瞳、遅速する世界」
だが、蹴りを繰り出すたびに、女はまるで舞うようにゆらりと身をかわす。
片手がふさがれているというのに、信じられないほどの速度で、私の攻撃を完全に避けている。
蹴りの際に発生する不可視の波も、彼女の周囲をなぞるように消えていく。
「ありえないっ! なんで当たらないの!?」
「ふっ」
「あああああっ!」
攻撃をよけながら、女が剣を突き出した。
手に持っていた短剣が伸び、あたいの腹部を貫いた。
その痛みのせいか、水霊器も解けてしまった。
「水霊器、水霊器! どうして?」
何故か水がいつものように操れない。
こんなこと初めてだ。
「やはり、あなた方も魔法使い同様、魔器を潰されたらおしまいのようですね」
「魔器……まさか、あたいの水霊核を潰したというの? どうやって?」
「なるほど。人族のそれとは少し違う気がしましたが、そう呼ぶのですね」
海人には水霊核と呼ばれる核があり、それによって水を自在に操ることができる。
やっぱり水が操れない!
だが、今はその能力が失われている。
聞いた話だと壊されても自然に治るはずだが、普通壊されることなんてないから本当か分からない。
「さて、これでやっと話ができますね」
「ひっ。やめて、こないで」
恐怖心から腰が抜けてしまった。
「攻めてきたのはあなたの方ですよ。素直に吐いてくれれば、楽に逝かせてあげますから」
女は冷たくそう言い放った。
*****
「安らかに眠りなさい」
素直に情報を吐いたアクアラを始末した。
捕まえて軍に引き渡しを要求されても、彼女が辿る末路は悲惨なものだろう。
「まさか、ルフェル家が代々所有していた大迷宮の核を使って魔物をおびき寄せるとはなんて大胆で強引な計画を……」
アクアラの知っている情報は少ないものだったが、狙いやこの計画については大体わかった。
まず、組織は一枚岩ではない。
海人族と別の組織で手を組み、ルフェル家の当主に近づいていた。
閣下がおっしゃっていたように、海人族の狙いは盗まれた魔道具を取り返すことのようだ。
別の組織の狙いは知らないようで聞き出せなかった、
そして、フロスト騎士団が動いたことによって計画を早め、当初の狙いだったルフェル家の家宝である大迷宮の核をこの日のために奪い、その時に当主を口封じに殺害したということらしい。
ルフェル家と言えば、元平民で強力な力を持った魔法使いが大迷宮を攻略し、その功績によって国から爵位を与えられた成り上がりの貴族家だ。
リオネルたちの父親、すなわち当主にはその魔法が引き継がれず、結果的に軍派閥の中ではそこまで権力を握れず、甘言に乗せられたといったところだろうか。
騎士団でも調査を行い、盗まれたものの中に迷宮核があったが、このような使われ方をするとは思わなかった。
迷宮核は魔物をおびき寄せるという話がある。
迷宮核を使ってこんな大量の魔物をおびき寄せられるなんて聞いたことはないが、大迷宮の核なら、魔物の住む高魔砂漠まで近づければ、おびき寄せることも可能なのだろう。
実際、子供の巨獣王竜まで誘われてきたのだ。
これからは踏破された後の迷宮核の所持について、厳しい規制が必要になりそうだ。
他に分かったことと言えば、ザヒール商会についてはルフェル家の当主を誘惑するためにちょうどいい駒として近づいたということくらいか。
アクアラは首謀者のこととなると事前に契約でも結んでいたのか突然口をつぐんだ。
なぜ、迷宮核のことについて知っていたのかについても聞き出せなかった。
できれば首謀者についての情報を聞き出したかったが、今はもっと大事なことがある。
街の方にも衛兵や騎士の注意を引くために襲撃者を送っているようだ。
諜報部隊だけでは手が足りないはず。
『ふ、副団長! ま、街でも襲撃を確認しました。今、ミラジアさんと私で対処しています』
「リーシェはそのままミラジアと襲撃者を制圧しなさい。ルインスもおそらく行動しているでしょう」
そんなことを考えていたら、リーシェから報告が来た。
夜ならアブドラハ全域まで調べられるルインスだが。今は昼だ。
彼の力だけでは襲撃者を抑えるのは難しいだろう。
「団長! 私はアブドラハへ帰還します。この騒動の原因になった迷宮核については、壊して事態が悪化しても面倒ですし、持っていくわけにもいかないのでこちらに置いていきますね」
「おう、行ってこい!」
「エルネスト! 降りてきなさい!」
そういうと、一匹の飛竜が降りてきた。
「いかがされました? サターシャ嬢」
「あなたの飛竜を貸しなさい。アブドラハで襲撃がありました。私が行きます」
「そういうことでしたら是非とも。ご武運を」
飛竜に乗り、飛び立つ。
その瞬間、
「なんだ、あれ? アブドラハから光が見えるぞ!」
「本当だ! 何が起こっている?」
狩人の誰かから、そんな叫び声が聞こえた。
「……急ぎますよ」
飛竜のお腹を蹴り、内心焦りながら、急いでアブドラハへと向かう。
魔物がたくさん出てきましたね。
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