48話 フロスト騎士団の魔物掃討戦②
―――フロスト騎士団戦闘部隊―――
「かかってこい魔物ども!」
バッカスが大量の魔物からの攻撃を大きな盾で受け止める。
魔物同士に仲間意識があるわけではなく、互いに攻撃し合う個体もおり、混沌とした状況だ。
「がんばれ。がんばれ」
ラーニャは砂魔蠍の背中に乗り込み、操縦しながら小型魔物狩りを楽しむ。
「念動旋刃円斬」
マーディはゆらゆらと空中で寝そべりながら念力魔法を使い、自身の武器である刃の付いたチャクラムを高速で回転させ、空蜥蜴や砂暴風竜といった空を飛んでいる魔物を淡々と切り裂く。
「うっは! 砂暴風竜の肉なんて初めてだ。どう調理しようか」
エリックは落ちた魔物を拾って集めつつ、適当に近づく小型の魔物をぶん殴る。
「騎士団に続け! 狩人の意地を見せろ!!」
狩人たちも騎士団に負けじと魔物の群れへ飛び込み、魔物たちの数は着実に減っている。
「よし、溜まったな。ジャビール、マーディ、俺を飛ばせ!」
バッカスは二人に指示を出し、マーディは念力でバッカスに浮力を与え、ジャビールはバッカスの体に風を纏わせる。
「合体魔法! 肉弾追尾砲!!」
とてつもない勢いで発射されたバッカスはそのままの勢いで、大型魔物、砂蟲王の顔付近まで一気に近づく。
「戦闘盾、モード:斧。 反転衝撃!!」
吸収反転魔法使いのバッカスはこれまで魔物たちから受けた攻撃の衝撃を斧の一撃に込め、砂蟲王を真っ二つに割る。
「モード:盾。マーディ!!」
「はいはい。ほーいっと」
マーディはバッカスを操作し、巨獣王竜と戦闘中の団長ガルハルトのところまで運ぶ。
「団長! 一発頼みます」
「任せろ! 大震撃!!」
ガルハルトの一撃を受け、さらに衝撃を貯めた後、もう一度別の砂蟲王のところへと飛んでいく。
「何度見ても、きもいニャー」
サターシャの指示で戦闘部隊に派遣されたミャリアはその光景を見て顔をしかめる。
理にかなっているやり方なのだろうが、やっていることは味方から攻撃を受け、それを相手に与えるという変態的な戦い方なのだから仕方ない。
「そろそろアタシも本気を出すニャ! 雷獣気、雷猫強化」
ミャリアの体からはビリビリと電気が走る。
サターシャにラフィのついでとして連れていかれた修行で鍛えられた雷獣気は、今や電気が可視化されるほどになった。
雷のような閃光を放ちながら、ミャリアはその力を全開にし、魔物たちに立ち向かう。彼女の動きはまるで雷鳴のように素早く、敵を一瞬で捉え、反撃の隙を与えない。
「はっ! ふっ! ニャッ!」
自身のスピードを最大限まで高め、次々と魔物を殺していく。
「あっ……切れちゃった」
とはいえ、まだまだ修行の身。
その強力な力も長時間は続かない。
「ミャリア。どんまい」
いつの間にか狂戦鬼に肩車状態で乗っているラーニャに煽られた。
「うるさい! ラーニャも集中するニャ!」
「魔物、ほぼ残ってない」
「え?」
ミャリアは集中していて気が付かなかったが、あれだけ大量にいた魔物はほとんど死体となっており、後は巨獣王竜と小型の魔物くらいだ。
「後は団長たちがやってくれる」
ラーニャはそう言ってオーガから降りる。
すると、操られていたオーガもどさっと倒れた。
「集団戦。もっと周り見なきゃめっ」
「ううっ、やめろっ!」
ミャリアは耳を触るラーニャの手を振り払った。
*****
「全く魔法が効かないぞ」
「これならどうだ!!!」
狩人の一人がその皮膚を斬ろうと剣を振るうが、ブヨンッと跳ね返されてしまう。
巨獣王竜の一番の脅威はその質量や大きさではなく、硬く弾力性のある分厚い皮膚だ。
軍人や狩人が協力して空中と地上から攻撃を続けるが、この皮膚により魔法は効かず、物理攻撃も大して通らない。
「こんなもんどうしたら良いんだよ!」
敵から奪った大迷宮核のおかげで巨獣王竜はアブドラハへの侵攻を止めてはいるが、誰もその最強種に有効打を与えることができていない。
そして、街の近くまで来てしまっている以上、放置しておくこともできない。
「ブグォォォォォオオオオオオ!!!!」
「下がれ!! また来るぞっ!!」
ガルハルトの指示が響くのと同時に、巨獣王竜は轟くような雄たけびを上げ、巨体をゴロンと回転させた。
その瞬間、周囲の魔物や魔物の死体は無惨に押しつぶされる。巻き込まれれば人などひとたまりもないだろう。
巨獣王竜は生まれ持って頑丈で巨大な肉体を有するからこそ最強種なのだ。子供であろうが関係ない。
その恵まれた体を存分に使い、飛び跳ね、転がり、目の前の敵を押しつぶしていく。
「諸君、離れろっ! 天雷!!」
エルネストは雷魔法を使い、その巨体に雷を落す。
「フンッ」
が、特に効いた様子もない。
「やはりだめなようだ。おい、地虫! 迷宮核を寄こせ。我々が飛竜でこいつを遠くまで運ぶ」
「馬鹿を言うな。狩人たちの顔を見てみろ。こいつのせいで何人死んだと思ってる。仇であるこいつに一矢報いなければ、死んだ奴らに顔向けできんだろう!」
ガルハルトの言葉通り、戦いの中で命を落とした仲間の無念を背負う狩人たちの目は怒りに燃え、殺気が鋭く宿っていた。
「お前こそ何を訳分からんことを言っているんだ! 私の軍にも死傷者は出ている。目的を間違えるな。これ以上犠牲を出さないためにも、今優先するべきなのはこいつを遠ざけることだ」
「これ以上犠牲を出さないために、今は俺が指揮を執っているんだろうが」
実際、他の魔物の討伐が終わり、足止めをしていたガルハルトが狩人たちをまとめ上げ、指揮を執るようになってからは巨獣王竜による被害は大幅に減った。
「どうしてお前たちはそう感情ばかりを優先するんだ!」
「感情あってこその人だろ! それに、俺だって引き際はわきまえているし、勝算はある。エルネスト、力を貸せ。すぅっ……いいか、これまでお前たちが戦ったおかげで奴も疲れている! 騎士団で隙をつくる! お前たちは後に続いて弱点をつけ!!」
ガルハルトが大声で呼びかける。
『おう!!!』
「任せろ!」
「仲間の仇をとってやるぜ」
狩人たちからも大きな歓声が上がった。
「ガルハルト、これでだめだったら私の作戦で行かせてもらうからな」
「バッカス、エリック!」
「団長、暴れますか?」
「なんだよ、親父」
魔物の討伐を終えたバッカスとエリックがガルハルトの元へ集まる。
「バッカスは俺に続け。エリックは何とかしてあいつの弱点つくれ」
「はっ! もちろんです。ジャビール、マーディ、俺たちを運んでくれ!」
「まじかよ」
「分かりました」
「えー」
「行くぞっ!!」
ガルハルトたちはジャビールとマーディの魔法により、巨獣王竜の脚元まで一気に詰め寄る。
「受け取れ! 雷霆の恩寵」
エルネストから特大の雷が発射される。
「受け取ったぞ! 合体魔法、衝滅の雷槌」
「全開放、反転衝撃」
衝撃魔法と雷魔法が共鳴し、電磁波が増幅されることで、電気エネルギーは生物の体内へと深く浸透し、その破壊力を飛躍的に高める。
ガルハルトのハンマーはこの『崩壊電磁波』を纏い、皮膚の防御を無力化しながら、直接内部へと衝撃を叩き込む凶器と化す。
バッカスとの連携によって、二人の攻撃は凄まじい轟音を響かせ、巨獣王竜の前脚の内側と外側を同時に打ち抜く。
「ブグッォォォォ!」
その瞬間、長距離の移動と激戦による疲労が蓄積していた巨獣王竜の脚が限界を迎える。
あまりに重い一撃に耐え切れず、巨大な前脚が崩れ落ちるとその体はバランスを失い、地を揺るがせるようにゆっくりと倒れ込んでいく。
周囲の地面が揺れ、埃が舞い上がる。
「ったく、やるしかねえか」
エリックは気を足に込め、顔まで跳躍し、その巨体な目をめがけて剣を突き刺そうとする。
しかし、巨獣王竜はその瞼を閉じることで防ぐ。
「悪いな。止まっているものを切るのは得意なんだ」
エリックは剣を両腕で持ち、振動魔法によって高速で振動させる。
「よっと!」
巨獣王竜の瞼に突き刺すが、それでも傷つけるだけで、目玉までは届かない。
「親父っ、無理だったぞ!」
「大震撃!!」
「エリックよくやった。斬るんじゃなく突き刺せばいいんだな」
ガルハルトに弾き飛ばされ、マーディの念力で操られたバッカスがエリック目掛けて飛んでくる。
「モード:槍。全開放、反転一突!!」
「ブグウウウウウ!!!!」
エリックが傷つけた部分を狙っての一撃は目玉まで届き、巨獣王竜は大声で鳴き叫び、暴れまわる。
「今だ、この機会に攻撃しろ! ここで決めるんだ!!」
狩人たちは恨みを晴らさんとびかかっていく。
巨獣王竜の命の灯が消えるのは時間の問題だろう。
*****
「やったぞ! 『荒野の王』を討ち取った!」
「これで子供って本当か?」
「本当だ。遠目に見ただけだが、こいつの親は歩く災害だ。あれは戦うとかの次元じゃない」
「そこっ! 無駄口を叩いてないで、早く負傷者の救助と手当をしろ。街に伝令を送っているからもうすぐ運搬用の荷馬車も来るぞ!」
「魔物を分けて解体しろっ! 全部貴重な素材だ。無駄なくやれよ」
巨獣王竜の討伐が終わった後の現場は阿鼻叫喚といった様子だ。
喜びも束の間、負傷した人の手当や、魔物の下敷きになった人の救出、魔物の解体等、やるべきことはたくさんある。
「おい、地虫。次はないと思えよ。それと、迷宮核は渡してもらう」
「ああ、勝手にしろ。」
エルネストはそう言うと、ボルティア軍の元へと返っていった。
「団長、もう俺は動けませんよ」
「若いもんが何言ってんだ。それに……」
「どうしました?」
「いや、何でもない。よし、団員を全員集めろ。俺たちもここを何とかしないとな。はっはっは!」
ガルハルトはそう言いながら、サターシャがアブドラハへ向かうと同時に現れた光の柱のことを思い出す。
(そっちは任せたぞ、サターシャ)
バッカス砲を打ち上げたくて「合体魔法」という概念が生まれました。
筋骨隆々の筋肉ダルマが空を飛ぶの好きなんですよね。




