31「お裾分けでまもんまもんじゃね?」①
「あー、ようやく我が家に戻ってくることができた。イベントイベントイベントって、異世界から帰還してからイベントさんが渋滞中なんですけど!? せめて整理券配って! ちゃんと相手するから! まとめてこないでくれます!?」
誰に聞かせるわけでもなく、もうすぐ家が見えるという場所で懊悩をはじめた夏樹。
そんな夏樹とすれ違うのは、近所の村上さんだ。
「あらあら、夏樹くんったらいつも元気ねぇ。あまりお母さんにご迷惑かけちゃだめよー」
自転車に乗って買い物袋を何個も器用に持つ村上さんは夏樹に声をかけ、去っていく。
「……お家帰って風呂入って寝よう」
いくつものイベントを片付けた夏樹の心は満身創痍だ。
アマイモンと命をかけた戦いをした以上に、精神的に疲弊しているのはいかがなものだろうかと思う。
ちょっと、笑えない。
むしろ、全力でバトルしていた方がすっきりして良いとさえ考えてしまう。
「――まもんまもん」
精神的疲労で重くなった身体を引きずり家の中に入ろうとしたその時、どこかで聞いたことがある、懐かしさと切なさで心がしめつけられる声が響いた。
「……おいおい、まさか」
「まもんまもん!」
「なんで向島市にいるのぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!?」
由良家の玄関の前に、七つの大罪の強欲を司る魔族――マモンがいたのだ。
「まもんまもん、久しぶりだな、由良夏樹! まもんまもんしているか?」
「割としているよ!」
「よいまもんまもんだ。俺にはわかる。貴様の魂にも、健全なまもんまもんが宿りつつあることに」
グレーのスーツ姿がよく似合う、イケおじなマモンだが、だいぶ陽気な人物になっていた。
スーツを着こなしているのに、なぜか足元は長靴だ。
しかも結構年季の入った汚れ方をしている。
「――なん、だと。まさか俺にまもんまもんが宿っているだと?」
「いずれ、貴様も立派なまもんまもんになるのだ! 青森はいつでも由良夏樹を歓迎しよう!」
何よりも目を引くのは、マモンが風呂敷を担いでいることだった。
「――あざっす! じゃねえよ!? なんでいるの? あんた青森で無期懲役でしょう!? ていうか、刑罰を決めたサタンさんがいる家のまえによく来たね! その根性がすごいよ! じゃーなーくーてー、何しに来たの! できるだけ簡潔にわかりやすく答えて!」
「――――まもんまもん」
「そりゃあんたにとって、まもんまもんは魔法の言葉かもしれないけど、俺にとってはまもんまもんはまもんまもんなんだよぉ! かくかくしかじかを実際に使う人いないでしょう!? それとおーなーじー!」
夏樹が魂からのツッコミを繰り広げていると、「やれやれ」と言わんばかりに「まもんまもん」と肩を竦めたマモン。
彼から魔力が放たれ空気が張り詰める。
「――キャベツのお裾分けに来たでまもんまもん。蓮が世話になっているアルフォンス・ミカエルの店の住所は知っていたんだが、お前たちの住所は知らぬまもんまもんだから、直接届けに来たんだまもんまもん!」
「なんか一瞬、張り詰めた空気を醸し出したのなんだったの!? どうもありがとうございます! キャベツ大好き!」




