エピローグ「京都勢は満喫するんじゃね?」
安倍東雲と円は、京都の鬼を支配していた茨木童子、星熊童子、熊童子と共に七森千手から紹介してもらったホテルに無事チェックインできた。
「……やべぇ、このホテル……温泉とサウナ、垢すり、エステがあるじゃねえか。東雲、金くれ!」
「……そこで迷わず金よこせと言える君も大概図々しいねぇ」
このホテルのオーナーは、千手に過去に依頼をしたことがあるようでとても感謝していた。
東雲たちを同業者と理解したオーナーは、快く部屋を用意してくれたのだ。
部屋割りは、東雲と円、鬼姉妹と分かれている。
最初こそ茨木童子が東雲と一緒の部屋がいいと言ったが、外見が幼い少女と部屋を一緒にして変な噂が立ったら千手に申し訳がない、円と色々話がしたい、姉妹で久しぶりに一緒に過ごしてほしいといくつか理由をつけて納得してもらった。
部屋に荷物を置いて、一息吐く間もなく星熊童子が部屋をノックしてきたのだ。
「いばちゃんと熊はんはどうしてるん?」
「姉貴は洋風のホテルが初めてだからってテンション上がってる」
「……ほんまぁ」
「熊童子は頑張って人の姿になろうとしてる」
「熊はん、ちゃんと人化できるん?」
熊童子は、一応。人化できるがあくまでも戦いなどで戦いやすい形態という意味での人化でしかない。
チェックインこそ東雲の符で姿を消して誤魔化したのだが、さすがに部屋から出るのは問題が多い。
とくにこのご時世だ。
鬼と言いながら、見た目は熊そのままの熊童子が姿を表したら大問題だ。
果たしてホテルに泊まる人たちが見ても驚かない程度には人化を成功させてほしいと願う。
「兄貴、おまた……せ……って、なんやねん、星熊。部屋でじっとしとらんでええの?」
制服から私服に着替えた円が部屋の奥から出てきた。
「円よぉ。せっかく人間のホテルに、しかも東雲のおごりでしばらく泊まるんだぜ。満喫するに決まっているだろう!」
「図々しい鬼やなぁ」
「――晩飯はバイキングだぜ! 俺、めっちゃ洋食食うんだ!」
「お、鬼がバイキングではしゃぐ姿は見とうなかったわぁ」
「いいじゃねえか! こっちは裏京都や京都から出ることなんて滅多にできなかったんだぞ!」
「それはキミらが悪さばかりするからやろう」
「昔ちょっとばかし悪さしたからって! 最近の悪さは、下っ端の鬼ばかりで取り締まっていたくらいだぞ! あとは姉貴の仕業だ!」
「あらぁ、私がどうかしたの?」
「――ひぃ、なんでもありません!」
円と星熊童子が言い合っていると、扉を開けることなく茨木童子が背後にいた。
「なんでもありやな、茨木童子」
「褒めても何も出ないわよ、円ちゃん」
「……毒が抜けた茨木童子にまだ慣れんわ」
京都では愛に狂った茨木童子だったが、絶望の神の影響もあったのだろう。
今は憑き物が落ちたようだ。
それでもすぐにすぐ警戒は解くことができない。
しかし、兄東雲が茨木童子に心を許している以上、円も折り合いをつけるべきだと考えていた。
茨木童子は一度、大切な幼馴染み由良夏樹によって退治されている。今の彼女は、別だと思いたい。
「くまくまーっ!」
とんとん、と部屋がノックされる。
「あら、熊童子ね。ちゃんと人間になれたかしら」
「姉貴が手伝ったからうまくいくと思うけど」
円が扉を開け、あんぐりと口を開けて固まった。
そして、扉をそっと閉める。
「くまくまっ?」
とんとん、とまた扉がノックされた。
「円、どないした?」
「あかん、疲れとるのかもしれへん」
目を擦った円が再び扉を開ける。
今度は、円だけではなく、東雲も、星熊童子も、そして茨木童子でさえあんぐりと口を開けて固まった。
――そこには、見事に人化を成功させた熊童子がいた。
――しかし、なぜか褐色の肌に、金髪ショートカットというちょっとギャルな感じになっていたのだ。
熊バージョンでは着られなかった、夏樹が用意したブレザーとミニスカート、そしてルーズソックスがとても似合っている。
ちょっと似合いすぎていて怖い。
「なんで黒ギャルになってるねん!?」
円の叫びに、熊童子はこてんと首を傾げた。
――この後、めっちゃバイキングでご飯を食べて、露天風呂、垢すり、エステを堪能した。




