34「婚約者が助けに来たんじゃね!?」①
「ちょっと待っててね。この姿じゃ、私の可愛さがなくなっちゃってるから――治すね」
明日香の弾む声が響くと同時に、失った半身がぐちゅぐちゅと耳障りな音を立て再生されていく。
炭化した肌も巻き戻したように健康的な肌を取り戻し、髪も元に戻った。
「……あかん。いくらなんでもあかん。君、それはあかんよ」
「どうしたの、お兄さん?」
「君、人の肉を、いいや、魔族や神の肉と魂を喰らったんやろ」
明日香の笑みが深まる。
「古来より、人間は力を強くするために強いもんを取り込んできたんや。人外を文字通り食い、ときに交わり血に取り入れ、果てには魂を取り入れた。結果、完全なる血統はおらんようになってもうたんよ」
人間の純血である夏樹は異例な存在だ。
一登のように人間の要素が濃い者でも珍しい。
対して、明日香は――人間の部分がほぼ無かった。
「君がどういう手段で、どんな理由でそんなことをしたんか気にならんし、聞きたくもないんやけど、改めて放置はできへん」
「私に夢中ね!」
「そういう会話がまともにできへん意味も含めて、自分は君を絶対に殺したる」
「嫌でーす! この力を持って日本に帰ったら、きっと素敵なことになると思うんだけど! それを邪魔するというのなら――殺しちゃうから」
明日香は腹部に手を当て、魔力を高めた。
すると、彼女の腹部から歪な剣が生まれる。
剣の形状こそしているが、あまりにも禍々しい。
「……それ、君が食った子たちやろ」
「せいかーい! 私って、エナジードレインしか持っていなかったんだけど、食べて食べて食べまくっていたら、なんだかとっても強くなっちゃったの! そうしたら王様とぜっくんがもっと強くしてくれるって言うから、お願いしたの!」
「……よくわからん神と人に身体を任せたらあかんよ」
「私って、求められると断れないの!」
明日香が地面を蹴った。
爆発的な勢いで一足飛びに東雲に向かってくる。
「させるかよ!」
「べあぁあああああああああああああああ!」
星熊童子と熊童子が盾となり、立ち塞がる。
「えー、邪魔なんですけどー」
明日香は眉をしかめて、剣を振るう。
素人が振り回しているだけなのだが、膂力が凄まじいせいか速い。
熊童子の腕に剣が掠める。
「ていうか、なんで熊がいるの!?」
「今更だろ! さっき、可愛い熊童子をぶん殴りやがって!」
「あー、なんかいたかも? おぼえてなーい!」
「この」
星熊童子の拳が明日香の顔面を捕らえた。
顔が、ぐしゃり、と潰れる。
普通の人間ならば、死んでいただろう。
だが、明日香はこのくらいでは死なない。
「私に触れたね?」
「あん? なに、を……」
星熊童子が突然膝をついた。
彼女だけではない。
腕を斬られた熊童子も、その場に倒れてしまった。
「……熊童子、星熊童子! あかん! エナジードレインや! その剣もその子の一部や!」
「早く、言え、よ。くそ」
「今、助けに」
「来んな! こいつは近づけさせねえ! だから、火力でぶっ飛ばせ! いくらこいつが人間やめてても、何度も身体を消し飛ばされたらいずれ死ぬ!」
「べぁああああああああああ!」
星熊童子と熊童子が明日香にしがみついた。
身体で戦うことしかできない以上、決定的な攻撃ができない。
ならば、式神を使い高火力を出せる東雲に賭けたのだ。
「あー、なんかそう言うのって萎えるんですけど」
明日香は握っていた剣を手放した。
なにをした、と思う間もなく、剣が大爆発を起こした。
星熊童子と熊童子はもちろん、東雲までが爆風と魔力の衝撃波で大きく負傷し、倒れる。
他ならぬ、明日香自身も剣を握っていた右腕と、右半身を失うほどの怪我を負っていた。
だが、倒れていない。
立っているのは明日香のみだった。
「痛い? 痛いよね? 私を人間やめてるとか酷いこと言うからいけないんだよ? じゃあ、お仕置きの時間だね。悪口を言う人は――殺しちゃおーっと!」
「――そんなことさせるわけがないでしょう」
「え? だ――」
明日香が声をした背後を振り返ろうとして、首が飛んだ。
「私の可愛いしののんと妹たちを可愛がってくれたお礼をたっぷりしてあげるわ」
真っ白な幼い少女だった。
セーラー服に身を包んだ姿は、清楚な印象を持つ美しい少女だった。
彼女には角が生えていた。
幼くこそなったが、彼女は正真正銘の――鬼。
かつて京都の鬼を恐怖で支配し続けた鬼、茨木童子だった。
「あん、た」
くるりと宙を舞った首が茨木童子の手のひらの上に落ちる。
茨木童子は、明日香の頭部に爪を立てた。
「――フィアンセの仇は私が取るわ」
「あー。この人が、しのの」
「貴様が気安くしののんの名を呼ぶな」
茨木童子は、怒りに任せて明日香の頭部を握りつぶした。




