31「ガープとアテーナーは見守るんじゃね?」
ガープは、アマイモンに仕える魔族である。
魔族の中でも上位の存在だが、彼は驕ることなく、偉ぶることなく、アマイモンの配下として長い時間を生きてきた。
強さを求めるアマイモンのために、料理を覚え、洗濯を覚え、掃除を覚えた。
アマイモンが訓練しやすい土地を買い、ロッジを設計から学んで建てることもした。
近年では整体の学校に通って、資格をとってアマイモンの肉体を癒すことにも力を入れている。
そんなガープだが、――強い。
本人は戦う必要がないので、戦うことは少ないが、アマイモンが訓練をしているのに自分がしないという選択肢が彼にはなかった。
習い事があるので時間は限られていたが、サタンとサマエルが魔界の覇権をめぐり殺し合っていたときに比べたら、数倍強くなった自負はある。
――ゆえに、新たな神々のような「若造」どもに負けることなどまずない。
「……おのれ、ガープ……よくも絶望の神を、裏切ったな」
「何言ってんだか。俺は絶望の神の友達になった覚えもないし、仲間になった記憶もない。まあ、こっちの世界に連れてきてくれたことには感謝しているが、それはそれ、これはこれ、だ。お前たちが新たな神話を作ろうっていうのはいいんだが、美学が無さすぎる」
スーツの上着を脱ぎ、シャツを腕まくりしたガープはエプロンのポケットからハンカチを取り出し顔についた返り血を拭う。
「まったく、これだから覚えた共は。神となろうと、浮かれてどうする。神も魔族も、そのあり方が現代に残ることに十分な理由があるんだよ。お前たちみたいに、強い奴についていけば美味しい思いができる……なんて考え方の三下以下は、何度生まれ変わっても神話にはなれねえのさ。って、聞いてねえか」
ガープの周囲に生きている新たな神々はいなかった。
絶望の神ぜっくんに与した天使、神、魔族、人間もすべて殺し尽くしている。
苦戦する相手はいなかった。
「強い奴らはみんな由良夏樹と愉快な仲間たちのほうか」
「――ガープ、終わったか」
「おうよ」
アテーナーが、剣を血を払いながら近づいてくる。
「なんだ、戦ったのか?」
「戦ったとも。私は絶望の神に都合のいいところしか見せられていなかった。こやつらは、戦士ではない。神を名乗る資格もない」
「ま、そうだろうな」
ガープが知る限り、新たな神々や、奴等に与した神、天使、魔族にまともな者は少ない。
夏樹と戦った絶叫の神がその筆頭と言ってもいいだろう。
もっと俗っぽい奴らはいたが、早々に松島明日香によって退場している。
この場にいる者は「まだマシ」なほうだ。
アテーナーは、都合のいいところしか見せられていなかったと言ったがまさにその通りだった。
むしろ、絶望の神でさえ、自分についてきた者たちが「馬鹿」だとは思っていなかったはずだ。
最初こそおとなしかったが、こちらの世界に来てからやりたい放題だ。
人間を弄び、殺し、酒を飲んで、交わる。
ガープとアマイモンにとって、奴らがなにをしようとしても興味はないので気にしなかった。
良識があるフン・フナフプなどは何度も止めに行こうとしたが、「言うだけ無駄だ」と嗜めたこともあった。
おそらくアテーナーも、「お行儀良くしている」奴らしかしらなかったのだろう。
「さてと、アマイモン様が思う存分戦えるように新たな神々は全て殺し……いや、まだそこに少しいるが、まああいつらが殺すだろうさ」
「……すでに神殺しをしているようだな。新たな神々はまだ力が弱いが神は神だ。由良夏樹の仲間たちは、神代の戦士に匹敵する強さを持っているのだろうな」
「どちらかって言ったら、由良夏樹と一緒にぶっ壊れているって感じがするんだがなぁ。いいさ。俺たちはことの成り行きを見守ろうぜ」
「お前は、戦わないのか?」
「戦うさ。だけど、アマイモン様が先だ」
「そうか。ところで」
「なんだよ」
「――なぜエプロンを装備している? ここは戦場だぞ?」
「このエプロンはアマイモン様が母の日に送ってくださったエプロンだぞ!」
「知るか! フリフリのエプロンをつけて戦場で戦うお前の姿は微妙だと言いただけだ!」
「悪口やめて! アマイモン様が、いつもすまぬ、とちょっと照れながら送ってくださったエプロンなんだぞ! ――っ、まさか、貴様、このエプロンを狙って」
「いらぬ!」
「アマイモン様が選んでくださったエプロンをいらないだと!」
「そなたも存外面倒臭い男だな!」
多くの敵を殺したはずのガープとアテーナーは、まるで戦いなどなかったように余裕があった。
それだけ、両者は強いのだ。
――だが、そんなガープとアテーナーでも絶望の神と門の神、そして松島明日香は相手にしたくなかった。




