18「というわけで滅ぼすんじゃね?」③
「くっ、おのれ!」
「――よせ」
魔王と呼ばれた青年が、制止の声と共に魔力を放出した。
魔力圧によって少女が地面に押しつぶされる。
「部下が失礼をしたこと、心から謝罪する」
「いえいえ」
「……だが、こうして我が魔力の中で平然としている貴殿を危険と思ってしまうのも事実」
「悲しいことだね」
「私は、新たな魔王となった身として、人間に貴殿のような強者がいることをそのままにできないのだ」
青年が剣を抜いた。
夏樹も聖剣を引き抜いた。
「最後に問わせてほしい」
「どうぞー」
「貴殿は、どうしても元の世界に帰ることはできないのだろうか?」
「現状は、ね」
「そうか。とても残念だ。貴殿には恨みはない。しかし、我が身は人間への復讐の炎で焼かれている! このままこの地に残るのであれば、理不尽であることを承知していても、殺さなければならない!」
夏樹と青年は剣を構えた。
「貴殿は強い。おそらく、どの人間よりも。いいや、先代魔王様よりもずっと強いのだろう。その美しく強い魔力を見ればわかる」
「あんたも強いね。――ただ、残念だが」
「……なにを残念に思う?」
「あんたはいい人だと思うけど、俺に殺されて終わりだ。魔族のこれからを見ることなく死んでいく」
「……そうか。貴殿はそれほど強いか」
「俺的にはあんたに思うことはなにもないんだ。だから、俺をそっとしておいてくれ。勝手に帰る手段を探して、適当に帰るよ」
夏樹としても青年と戦いたくなかった。
残念だが、目の前の魔王は強いが、夏樹の知る魔王ギーゼラよりも少し強いだけでしかない。
夏樹にとって、脅威ではないのだ。
(――いや、力を隠しているかな? もしかしたら苦戦するかも? まあいいか)
傲慢でも慢心でもない。
夏樹は勝つ自信があった。
自分と聖剣さんが共にあれば、怖いものなどない。
「残念だ。そして、謝罪しよう」
「そりゃこっちの台詞だ」
夏樹は聖剣を片手で構えた。
青年は、剣を両手で構え腰を低く落とす。
「我が名は、アールウェルス。魔王であり、覚醒者だ」
「由良夏樹。聖剣に選ばれた勇者だよ!」
「貴殿の名は忘れん」
「俺もさ」
青年――アールウェルスと夏樹が同時に地面を蹴る。
聖剣が彼の剣を断ち切った。
「――っ」
アールウェルスの目が見開くも勝負はまだ終わっていない。
彼は己の身を犠牲にして、自らの身体に聖剣が届く時間を作った。
聖剣はアールウェルスの腕を骨を順番に斬っていく。
肘から下を、二の腕を、そして肩を。
その刹那の間に、アールウェルスの左腕が夏樹に伸びた。
が、夏樹は彼の伸ばされた手を噛みちぎる。
血、肉を吐き出し、口周りを赤く染めた夏樹は、残念そうに顔を歪めた。
「さようなら、魔王アールウェルス」
「いやいやいやいやいや! ちょっとたんま! たんまたんまたんま! まんた!」
聞き覚えのない少女の声が響き、夏樹と聖剣さんを含めたすべての者の動きが強制的に停止した。




