17「というわけで滅ぼすんじゃね?」②
――十五分後。
夏樹と聖剣さんは、王宮の入り口にいた。
王宮の中に、もう生きている人間はいない。
奴隷以下の扱いを受けていた魔族だけは生かしてある。
彼らがどうするか、彼ら次第だ。
「あ、やべ。どうすれば元の世界に戻れるのか聞くの忘れた」
「今更ね!」
「聖剣さんだって忘れてたでしょう!」
「――う……間違いは誰にでもあるわよ! 気にしちゃダメ! 前に進むの!」
「そうだよね! でもさ、その前に進むのを邪魔しようとする奴がいるって言うのは面倒だよねぇ」
夏樹の眼前には、完全武装の騎士たちが列をなしている。
騎士の後ろには馬に乗った貴族が控えている。
「貴様が狼藉――」
貴族が何か言おうとしたが、彼の首が飛んだ。
「……あれ?」
「なによ」
「俺、なにもしていないんだけど」
「……夏樹、あんたまさか、ついに念じるだけで首を斬り飛ばすことができるように」
「さすがにそれはないよ! 話聞こうとしてたもん! 念じてないもん!」
「じゃあ、なぜよ?」
「あいつらのせいじゃね? ――ほら」
街の向こう側から、魔族と思われる集団が現れた。
先頭に立つのは、牡羊の角を持つ長身の男性だ。
年齢は、三十よりも少し若いほどだった。
軍服のような詰襟を身につけ、黒のマントを羽織っている。
「ここに異世界から召喚された勇者がいると聞いた」
静かな声が響いた。
感情がない声だった。
「はーい」
「貴殿がそうか」
「そうですー」
「まだ幼いな。城の中をどうした?」
「人間は殺したよ」
「魔族は? 奴隷として囚われている者たちがいたのだが」
「なにもしてないよ。する理由もないから」
「そうか」
男性と夏樹だけの声が響く。
挟まれる形になった騎士たちは、指揮官を失ったこともあり右往左往している。
正直、敵でも脅威でもないので、存在を無視していいだろう。
「我ら魔族はこの国を攻め滅ぼす」
「どうぞどうぞ」
「王宮の人間をすでに殺してくれているのであれば、心からの感謝を。貴殿のおかげで大切な仲間が傷つくことなく腐った人間を、敬愛する王の仇を取ることができた」
「どういたしましてー」
「この場にいる騎士たちを殺すが、貴殿はどうする?」
「関わる気はないんで、どうぞ。あ、でも、王宮の中に逃げようとするのなら、斬り捨ててあげるよ」
「つまり、我らの味方を?」
「味方っていうか、俺はこの国の敵だから。こっちに来るなら殺すってだけ」
「承知した。貴殿の配慮に感謝する」
「いえいえー」
青年が軽く手を振ると、彼の背後に控えていた魔族たちが人間の騎士に襲いかかった。
基本的な身体能力が違うのだろう。
瞬く間に、人間たちは亡骸と変わる。
魔族たちは、夏樹たちに関わることなく亡骸を跨いで次の場所へと向かう。
おそらく、この街にいる人間を殺し、囚われた魔族を保護するのだろう。
「で、あんたは残ったんだ」
「貴殿から魔族への悪意も敵意も感じないが、その身に秘める凄まじい魔力から目を離せない」
「敵対するつもりはないから、安心していいよ」
「そうか、と言いたいが、その力は脅威にしか感じない。私は、魔王を継ぐ者。脅威を排除しなければならない」
「気持ちはわかるけど」
彼の目を見れば、わかる。
復讐者だ。
夏樹も人間だ。彼にとっては世界が違うなど関係ない。
人間は人間である以上、復讐対象だ。
しかし、すべての理性を総動員して、夏樹に襲いかからないようにしている。
「あんたみたいな人を殺したくないんだけど」
「――私を人と呼ぶか、そうか、貴殿は私を人と呼んでくれるのか」
「魔族だって人でしょうに」
「そうだな。少なくとも我々は人として生きてきた」
そんな魔族を踏み躙ったのは、この世界の人間なのだろう。
「貴殿はこれからどうする?」
「元の世界に帰りたいんだけど、帰る手段がわからないんだよね。聞く前に、召喚者を殺しちゃったから」
「つまり、この世界に残るということか?」
「残るつもりはない。俺には故郷があって、すべきこともある」
青年が沈黙する。
夏樹をどう対処すべきか悩んでいるのだろう。
「――魔王様、なにを悩む必要があるんですか! こいつも人間です! 殺してしまえば、それで終わりです!」
「――っ、よせ!」
青年が初めて感情的になった。
しかし、彼の背後から現れた魔族の少女が夏樹に肉薄する。
短剣を夏樹の喉に突き立てた。
――が、夏樹の喉に傷ひとつ付くことはなく、短剣の方が折れた。
「切れてなーい!」




