9「魔王さんって魔王っぽくなくね?」③
「この少年の強者感は置いておくとして……いや、置いておきたくはないのだが、置いておくとして! 勇者よ、こうして話ができることを嬉しく思う」
魔王は真っ直ぐに夏樹を見つめた。
「俺も魔王さんとこうやって話ができて嬉しいよ。前の魔王さんは、正気を失ってニンゲンホロボスゾフシャーって言ってたし」
「そんな猫みたいな反応はしていなかったと思うが……まあ良い」
夏樹は記憶にある魔王と今の魔王を比べてみると、だいぶ印象は違う。
魔神に影響を大きく受けていたとはいえ、これほど理性的な魔王だと思っていなかった。
魔族は人間に大なり小なり恨みがあり、その積もり積もった感情が人間の横暴をきっかけに爆発したのが戦争の始まりだと聞いている。
魔王から人間への恨みをまったく感じないわけではないが、人間である夏樹たちを前にして、「関係ない」と思える理性と知性を持ち合わせているように伺えた。
「――最初に伝えるべきだったが、いろいろありすぎて遅くなってしまった。勇者由良夏樹よ、我を解き放ってくれたことに心から感謝を」
「どういたしまして」
魔王に続き、娘のラーラも夏樹の感謝の言葉を伝えた。
「お母様を救ってくれてありがとう。なによりも……殺さないでくれてありがとう」
「いえいえ、どういたしまして」
ラーラの感謝の言葉に思い出すのは、魔王との決戦の直前だ。
魔王を殺し日本に帰るつもりだった夏樹の前にラーラが現れ、膝をついて母の命乞いをした。
彼女は母がおかしくなったことを打ち明け、殺さないでほしいと訴えたのだ。
無視して首を刎ねようと思ったが、できなかった。
不思議と、すべきではないと考えてしまったのだ。
夏樹は、ラーラにペガサスの面倒を頼むと、魔王と戦い勝利した。
殺そうと考えたが、ラーラが悲しむと思いしなかった。
すると、まるで隠しボスの如く魔神が現れ、夏樹の興味は魔王から魔神へ移った。
見事、魔神殺しを果たし、日本へ帰還したのだ。
(日本に帰れなかったり、魔神が出てこなかったりしたら殺していたかもしれないけど、うん、今言うことじゃないかな)
「あのー、ちょっといいっすか」
「なんだろうか、四天王びーえるよ」
「自分は青山銀子っす!」
「失礼した。青山銀子」
手を挙げて質問を投げかけるのは銀子だ。
「夏樹くんに人の心が残っていたことに驚きはしたんすけど、それよりも、魔王さんはどうして魔神の支配を受けちゃったんすかね。こんなこと言っちゃなんですが、今の魔王さんってあんまり私たちが想像する魔王らしくないって思っちゃうんですよねー」
「……ご期待に添えなくて申し訳ないが、我はもともとこんな感じだ。だが、そうだな。魔神の支配を受けたことに関して話しておくべきかもしれない」
魔王は過去を思い返すように語り出した。
「結論を先に言うならば、我が愛剣常闇の剣に魔神の怨念が宿っていたのだ」
「――怨念がおんねん」
「つまり、夏樹くんが魔王さんから奪った魔剣が原因ってことっすか?」
「怨念がおんねん」
「そういうことだ。だが、安心していい。私を倒し、魔神を殺したことで魔剣の怨念は消えている」
「怨念がないねん」
「そういうことっすかぁ。夏樹くんの持つ魔剣は禍々しいっすけど、元はもっと禍々しかったんっすねぇ」
「代々魔王に伝わっていた魔剣だ。長い時間、血を吸い、命を奪ってきたことで、魔神の怨念が呪いのようになってしまったようだ。同時に、その呪いは我らに力を大きく与えた。理性も奪われてしまったがな。まさか、勇者が手にした瞬間、魔神のすべてが浄化されてしまったことには驚いたが」
夏樹が振るう常闇の剣の正体に、魔剣好きの銀子はもちろん、小梅達も大きく驚いたようだ。
魔王が代々受け継ぐ魔剣を日本で平気で振るっていたのだ。
「あー、ところで、勇者よ。敗者が頼むことではないのだが、常闇の剣を一時的に返してくれまいか? 魔王城の宝物庫の鍵になっていることを失念していたのだ。無論、感謝の気持ちで宝をいくつか持って帰ってもらってもいい。頼めるだろうか?」
「――や!」
夏樹は不貞腐れてそっぽを向いた。
怨念がおんねん!




