6「権力争いってくだらなくね?」②
祐介は、騎士と王女を見たあと、ソーニャを見た。
「わかった。あなたに従います」
「良いご判断です」
「おい! 祐介!」
「その代わり、ソーニャさんを自由にしてください」
「……いいでしょう。特にメイドなどに興味はありません。わたくしが欲しているのは勇者であるあなたですから」
アマリリスは祐介の訴えをあっさり受け入れた。
おそらくソーニャの正体に気づいていないのだろう。
あえて言う必要はない。
このままソーニャだけでも逃すことができれば、彼女を経由して夏樹たちに自分のことが伝わるだろう。
(夏樹くんたちはもうこっちの世界にいるし、死刑から助けてくれた。なら、なんとでもなる。僕も従順な姿を見せて時間を稼げば魔力だって回復できるし……うん。まだ詰んでない)
「待――」
祐介の決断を止めようとしたソーニャを手で制する。
余計なことを言われて、アマリリスに興味を持たれては困る。
「ふふふ。お姉様と違い、わたくしは約束を守りますわ。そういえば、あなたは魔族が好きなようですね。王国で捕らえている魔族を奴隷として差し上げましょう。あとで好みの種族や年齢、性別をお聞かせください」
「そそそそそっそそそそそ、そんなっ、奴隷なんて非道な!」
「……わたくしが言うことではありませんが、あなたはもう少し本心を隠せるようにしたほうがいいですわ」
「え?」
「……貴様、口では非道といいながら、口元が緩んでいるぞ!」
「だって! ようやくちゃんと魔族さんと会えるんだもん! 僕は非道なことなんてしないよ! むしろ、奴隷扱いされた魔族たちの怒りをこの身で受けるくらいの覚悟はあるよ!」
「……なるほど、勇者様はマゾ豚野郎と」
「被虐趣味じゃないからね!? そこ、誤解しないで!」
祐介は冗談を混ぜて、時間を稼いでいた。
大地の勇者である祐介だからこそ、わかることがある。
――それは、巨大な象が真っ直ぐにこちらに向かってくるのだ。
まだ遠いが、あっという間に近くに来るだろう速さがある。
幸い、まだ足音は聞こえない。
王女と騎士も、祐介たちに視線を向けているので、象が近づいても音が響くまで気づかないだろう。
「アマリリス様! この者にはランドル様とベアトリス様に何かした容疑がかけられています! この男を連れ帰って裁きを与えるべきです!」
騎士の上官が馬から降りて、アマリリスに訴える。
だが、彼女は一蹴した。
「魔力封じの枷をつけ、散々痛めつけた相手にあのように簡単に殺される程度の騎士団長などこの国にはいりません。……そういえば、あなたたち騎士団は、騎士団長と特別親しいお姉様と懇意ですわね」
「それは」
「つまり、騎士団はわたくしと敵対すると言うことが総意でよろしいですの?」
「い、いえ、そんなことは……ございません」
「そうでしょう。お姉様はもう勇者を利用できず、騎士団長の後ろ盾もないただの王族に成り下がりました。忠誠を誓うには値しません。そこで、あなたたちにもチャンスを与えましょう。わたくしに従いなさい。お姉様がした以上に、今ならば騎士団を優遇してあげましょう」
アマリリスは微笑む。
だが、一介の騎士たちには決定権がない。
「騎士団全てがこの場で忠誠は誓えないことはわかっています。あなたたちだけでも、忠誠を誓いなさいと言っているのです」
どうするべきかと悩む騎士団に圧をかける。
もう一言、二言アマリリスが脅せば、騎士たちは屈するだろう。
――だが、そうはならなかった。
「ソーニャさん、こっちに!」
「なにを!?」
祐介がソーニャの手を握り、走る。
「あら、ここで逃げ出すのは良い判断とは言えません――ね?」
アマリリスは、祐介に向かい言葉を放った刹那、象に跳ね飛ばされた。
細い身体は宙を舞い、無抵抗に地面に激突する。
「ぱおぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおん!」
象は王女だけでは飽き足らず、騎士たちを薙ぎ倒していく。
「な、なにが」
「はははは、ざまあみろ。なけなしの力を振り絞って、地面の揺れと音をけしてやったよ。でも、もう限界」
気を失いはしなかったが、祐介は力なくソーニャにもたれかかる。
ソーニャは慌てて祐介を支えた。
象は騎士を蹴り飛ばし、鼻で捕まえ投げ、踏み潰していく。
しばらく阿鼻叫喚が続き、騎士が逃げ始めた。
残されたのは動けない騎士と、地面に倒れるアマリリス。そして、祐介を抱えるソーニャだった。
象は祐介たちの前で動きを止めると、「ぱおーん!」と鳴いた。
「迎えにきたぜぃ、乗りな!」
「しゃべったぞ!?」
ソーニャが驚き、叫んだ。
ゴッドの転移に無理やり介入したガネーシャさんはなっちゃんたちと違うところに飛んでいました。
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