5「権力争いってくだらなくね?」①
ソーニャが魔族の勝利を確信していると、祐介と彼女の頭上に白馬が現れた。
「――ペガサス!?」
「しまった! 先代勇者の話に夢中になってしまい足を止めすぎた! 王族が来るぞ!」
「王族!?」
「この国でペガサスに乗ることを許されているのは、王族だけだ!」
祐介はベアトリス・ブレスコット以外にも王族がいることを思い出す。
まさか父親である国王が出てくるとは思わないが、油断はできない。
現在、祐介は魔力が枯渇しているため、少し身体能力の高いだけのごく普通の大学生でしかないのだ。
「――騎士どもも追いついてきやがった」
「くっ、ここまでか」
祐介はなんとか魔法を使おうとするが、使えない。
せめてソーニャだけでも逃すことができればと何かできないか考える。
そうこうしている間に、ペガサスが祐介たちの逃げ道を塞ぐように街道に降り立った。
「――ごきげんよう」
ふたりの目の前に現れ、スカートをつまんで優雅に一礼したのは、十八歳ほどの女性だった。
淡い水色のドレスに身を包み、ティアラを乗せた清楚な雰囲気を持つ女性だった。
長いプラチナブロンドの髪を風に揺らし、微笑む姿は、絵に描いた王女像だ。
「……ベアトリスの妹、第二王女のアマリリスだ」
「……似ているような似ていないような」
「性格の悪さなら姉の圧勝だが、こいつもこいつでなかなか性格が悪いぞ」
「……でしょうね」
ベアトリスの妹がまともなわけがないと祐介が納得する。
その間に、背後から騎士が走ってきて取り囲まれる。
騎士も大変だ。
上官は馬に乗っているが、他の騎士は鎧を身につけたまま全力で走ってきたのだろう。息を切らしている。
だが、腐っても騎士なのだろう。抜刀した剣の切先は迷うことなく祐介に向けられている。
「勇者佐渡祐介様でしたわね。あら、そちらはお姉様のお付きの……お名前は存じませんが、メイドでしたね」
ころころと楽しそうに笑っているのが不思議だった。
騎士団長が死に、ベアトリスの腕が斬り落とされたのだ。
怒り狂っておいかけてきたのかと思えば、当の妹は笑顔だった。
「不可思議な攻撃がランドルを真っ二つにして、ぷふっ、お姉様の腕を斬り落とすとか、遠目に見ていて大爆笑でしたわ!」
「……あ、本当だ。性格悪いなぁ」
「姉妹で権力争いをしているんだ。下にまだ妹がいるが」
「もうお腹いっぱいです」
仮にも姉が腕を斬り落とされて笑える感覚がわからなかった。
「ランドルは自分に何が起きたのかわからない顔をして絶命していましたわ。お姉様なんて、回復魔法をかけても腕が治らないといいますか、そもそも肘から下が消失していますの。いい気味ですわぁ!」
夏樹の一撃は、神に通ずる一撃だ。
いくら異世界の騎士団長だろうと、人間という枠では反応も何もできなかったのだろう。
一応は勇者である祐介だって、何が起きたのか分からなかった。
ベアトリスの腕が回復しないのも、夏樹の力のせいだろうと思う。
「そ、それで、僕たちをおいかけてきてどのようなご用ですか?」
「そう警戒しないでくださいませ。そちらの騎士たちは、あなたたちを殺すか、生きたまま連れて帰ることを役目にしていますが、わたくしは違いますわ」
アマリリスは一歩前に出た。
「わたくしに下りなさい」
「……なんだって?」
「お姉様がずっと目障りだったのだけど、あなたたちのおかげで面白いことになったわ。お姉さまに肩入れする騎士団長もいなくなったのなら、あとは兄上や弟たちを蹴落としてわたくしが王になれる!」
「……うわぁ」
「わかりやすい、女だ」
「お誘いは一度だけですわ。わたくしの下に付きなさい。もしくは、断り騎士たちに殺されなさいな。さあ、どちらをお選びますの?」
次回、祐介くんとぱおーん!




