93「まだ思い出していない過去があるんじゃね?」①
夏樹は円と一緒に、夜の京都をゆっくり歩いていた。
ふたりは、取り戻した記憶を頼りに、思い出の場所をゆっくり巡る。
数年前のわずかな思い出は鮮明だが、残念ながら街並みは変わってしまっている。
唯一、変わっていない神社を見つけ、境内に続く階段に腰を下ろした。
「いろいろ変わっちゃったねぇ」
「……せやね。僕らがちょっと大きくなった間に、街並みはすっかり変わってもうた」
懐かしさと寂しさを覚える。
幼い頃、大きく見えた道路や、境内へ続く階段は、中学三年生の夏樹には普通の道路と、短い階段だ。
「短い時間やったけど、なっちゃんとの思い出はたくさんあるんやねぇ……茨木童子の呪いがなくなったおかげで、いっぱい思い出したわぁ」
「俺もなんでか忘れてたから、京都に来ていろいろ思い出せてよかったよ」
本当になぜ思い出せなかったのか、夏樹は疑問だ。
「……なっちゃんが生きていてくれたのは嬉しいんやけど……茨木童子に思いっきり喰われとったんに、なんで元気なん?」
「それだけはわからないんだよね、マジで。そこだけは本当に謎かな」
「謎かぁ。……でも、こうしてなっちゃんが無事ならええか」
考えても仕方がないことだ。
ふたりは切り替える。
示し合わせたように、顔を見合わせた。
「おかえり、なっちゃん」
「ただいま、円ちゃん」
長い時間離れていた友人とちゃんと再会できた気がした。
「なっちゃんはこれからどうする?」
「新幹線が取れたら今日帰るかな? 最悪、飛んで帰ればいいし」
「……昔もやけど、今のなっちゃんもはちゃめちゃやなぁ」
「そうかな?」
「そうやで」
くすくすと笑う円に、夏樹も声をあげて笑う。
「また京都に来てくれるん?」
「そりゃもちろん。円ちゃんも向島においでよ。神とか魔族とかちょいちょいいるけど、のんびりとしたいい街だよ」
「……神や魔族がいる街がのんびりしとるかどうかはわからんけど、うん、僕も向島に行くよ」
幼い頃に戻ったように、夏樹と円は指切りをした。
京都についてから、初めて穏やかな時間が流れた気がする。
「おーい! 由良夏樹、探したぜ!」
「あれ?」
「……蘆屋道満様?」
夏樹と円に遠くから蘆屋道満が手を振り声をかけてきた。
ふたりは立ち上がると、彼の元へ駆け寄っていく。
「いやー、仕事を抜け出したのがバレて上司に怒られちまってな。気づいたらこんな時間だ」
「……上司に怒られるビッグネームって嫌だなぁ」
「ほ、ほら、なっちゃん、蘆屋道満様は京都のために時間を割いてきてくれたんやし」
「そうだぞ。もっと敬え」
「へへー」
「……まったく。昔は、おどおどして可愛かったのに、すっかり捻くれちまって」
「いろいろありましたから……え?」
「え?」
「なんだ?」
何気ない会話をしたはずが、夏樹と円は耳を疑った。
蘆屋道満に恐る恐る尋ねる。
「あ、あの」
「なんだよ?」
「幼少期のプリティーな俺をご存知で?」
「……そこは思い出してねえのか? 春子とお前が京都に来ていた時、俺の家の空き部屋を間借りしていたんだぞ」
「ほぇええええええええええええええええええええええ!?」
夏樹は、自分がまだ思い出していないことがあったことよりも、母の交友関係が謎すぎて夜の京都に叫んだ。
ちなみに蘆屋道満さんは、春子さんLOVE勢ではなく、親友であり悪友ポジどす。




