65「征四郎さんと甥っ子じゃね?」
「はじめまして、おじさん。神奈義政です。あ、違った。父とは血の繋がりがなかったんでしたね。神奈姓を名乗るのは烏滸がましいのですが、母方の風間も名乗れないでしょうから、すみません」
「…………神奈征四郎だ。弟の子と聞いているが、いくつかな?」
「五歳ですが?」
ハーフパンツにパーカーを着た少年――神奈義政は、ズレてくる眼鏡をくいっ、と直しながらお辞儀をした。
「まさか母が追い出されただけでなく、父までどこかに連れて行かれてしまうとは、僕の人生も前途多難ですね」
「……本当に五歳かな?」
「ええ、五歳です」
くいっ、と眼鏡を触る少年は、五歳とは思えない言動だった。
「そ、その、両親のことは……すまないと思っている。俺の一存ではなにもできなかった。だが、君のことは保証すると約束しよう。この家で過ごしてもいいし、他家に預かってもらってもいい。神奈家の当主にはなることはできないが、子供のいない分家ならば……いや、子供に何を言っているんだ?」
子供に言う内容ではなかったことを思い出し、咳払いをした。
弟と元婚約者のことをすまないとは思わないが、子供の手前言っておいた。
義政も両親から五歳で引き離されてしまったのだ、さぞ不安だろう。なによりも、征四郎たちを恨んでいるだろう。
「おそらく風間家でも僕を引き取りたがらないでしょうし、この家では……お婆さまに申し訳ありません。愛人の子でありながら、図々しくおじさんから次期当主の座を奪った父親に、浮気者の母親の子供ですからね」
くいっ、と眼鏡を触る義政少年は、五歳とは思えないニヒルな笑みを浮かべた。
「君、本当に五歳!?」
「もちろんです。最近の五歳児なんてこんなものですよ」
くいくい、眼鏡を触りながら義政少年は、嘆息する。
「僕としても、あのような両親から解放してくれて感謝しているんです」
「なんだって?」
「両親は僕を神奈家の当主にするつもりで、五歳児には厳しすぎる訓練をさせていました。特に母ですね。自分は父以外と浮気しているのに、当主になれ当主になれと良いご身分です」
「……ま、待て、朱美は浮気をしていたのか?」
子供に聞くようなことではないが、つい訊ねずにはいられなかった。
義政は、眼鏡をくいっ、と直すと「はい」と肯定した。
「僕の習い事と言って男と会っていましたよ。霊能関係の人ではないようですが、僕のことを子供だと舐めていましたね」
「……なんてことを」
「征四郎おじさん……一度浮気をするような人間は何度でもするんですよ」
「……君本当に五歳!? 中身、転生者じゃない!?」
「転生者ってなんですか?」
「ほ、本当に言ってるのかな? わざとかな? 俺にはもうわからない!」
すでに朱美はいないので、問い詰めることもできないが、風間家の人間には言っておこうと決意する。
「それで、君は今後どうしたいのかな? できるだけ、希望に添いたいんだが」
「僕には将来の夢があるんです」
「ほう。若いのにいいことだ」
「――動画配信者になりたいんです!」
「あ、よかった。ちゃんと子供だ」
動画配信者になりたいと、瞳をキラキラさせる義政に征四郎はちょっとだけホッとした。
だが、やはり彼のためにはどうすればいいのだろうか、と悩み、しばらく時間をもらうこととなる。
だが、後日、母が義政と話をしてみると、「友達と離れたくない」と言ったので、そのことを第一に今後の方針を決めることとなった。
しっかりものの五歳児義政くん。
補足として、今後あまり深掘りする予定はありませんが、彼はちゃんと成長し、幸せになります。
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