2「爽やかな出発の朝じゃね?」②
「おう、早いな。くそ親父から車を借りたせいで、ついてくると駄々を捏ねられて時間がかかっちまった」
「千手パピーも来てもいいのにー」
「駄目だ! 権力と子供を遠ざける学校に、権力大好きなおっさんを連れて行こうとするんじゃねえよ!」
「ほんま、七森家の御当主はおもろいわ」
ミニバンから降りてきたのは七森千手と虎童子、そして安倍円だった。
三人は、まず月読に挨拶をしてから、夏樹に声をかけた。
「おはようさん、由良。相変わらず、朝からテンション高そうだな」
「ぐっもーんにん」
「おはようさん、なっちゃん」
「千手さん、とらぴー、円ちゃん、おはようございまーす!」
眠たそうな千手がサングラスの位置を直しながら、虎童子はチョコレートバーを咥えて、円は見慣れない制服姿でそれぞれ挨拶を交わす。
「円ちゃん、それって」
「僕の学校の制服や。学校見学やから、一応な」
「京都の学校かー! いいなー!」
円はくすりと笑った。
「いいも悪いも普通の学校やで。なんやかんやと安倍家はみんな同じ高校なんよ」
「一般学校だっけ?」
「せやねぇ。一般人が通う普通科や。僕ら、裏家業に忙しいんよ。だから、時間に余裕がある学校がいいんよねぇ」
円だけではなく、東雲も向島市を拠点とし、「院」に関わっていくことを決めている。
拠点を完全に移すわけではなく、京都と二分割するのだ。
すでに夏樹経由で素盞嗚尊に連絡を入れており、水無月家当主水無月茅、重鎮の雲海と星雲も安倍家の「院」所属を推薦してくれたので、歓迎されているようだと聞いている。
「円ちゃんホテル暮らしはどう? 快適?」
「もう飽きてもうた」
「あら」
「プールも、サウナも、温泉も、もう駄目や。毎日は飽きる。しかも、オプションで東雲の兄貴と茨木童子が所まかわずいちゃつくんや! 僕と星熊と熊童子は毎日砂糖を口から吐いとるからね!」
「……あのカップルも絶好調だな。紆余曲折あった分、反動がすごそう。来年には子供いそう」
「それが意外と初々しい中学生みたいなお付き合いなんよ。手を繋いで河原を歩いたり、令和の時代にペアルックしたり! それを見せられる弟の気持ちはきっと僕だけにしかわからんよ……」
「ご、ご愁傷様です」
「そんなわけで、誘ってもらってよかったわぁ。――月読命様、本日はよろしくお願いいたします」
夏樹と朗らかに話をしていた円は、月読に深々と改めて礼をした。
「こちらこそ、お付き合いくださりどうもありがとうございます」
「僕としては、向島市にある高校がええんですけど、こっちの同世代の霊能力者がどんなもんか興味があるのでありがたいです」
円は夏樹には見せない、含みのある笑みを浮かべた。
向島を拠点に霊能力者として活動するのであれば、いずれライバルとなる人間たちを把握しておくのも大事なことだ。
「そう言ってもらえると助かります。ところで、夏樹くん」
「はい?」
「小梅さん、銀子さん、星子さん、菜々子さんが見えませんが、どうしましたか?」
月読に尋ねられて、夏樹は困った顔をした。
「銀子さんが……昔の制服を着て来ようとして、さすがに外ではやめるようにって小梅ちゃんたちと朝からバトルしています。もうすぐくると思います!」
「……そ、そうですか」
「ちなみに、俺は無理して着ている制服で外に出るのもそれはそれでアリだと思います!」
「……先生、急にそんなこと言われてもどういう顔をしていいのかわかりません」
「……なっちゃん、急にそんな性癖暴露されても」
「あれ? これ性癖暴露していることになるの!?」




