67「ステファニーが最期に見たものじゃね?」
血を流し、動かなくなったステファニーを冷たい目で見下ろしている保に近づく人影あった。
「――保さん! 迎えにきました!」
「やあ、ぱおん。ありがとう」
現れたのは、異世界帰りの中学生である斑目ぱおんだ。
ぱおんは保を心から慕っている少年でもある。
「……やっぱりステファニーさんが裏切り者だったんですね」
「とても残念な結果になってしまったよ。彼女を手にかける日が来るなんて、夢にも思わなかったよ」
「大丈夫ですか、保さん?」
「ありがとう、大丈夫さ。仲間たちのために、私が折れてしまうわけにはいかないからね」
保はぱおんに事前に「ステファニーが裏切り者の可能性がある」と告げていた。
そのおかげで、ステファニーが血を流して倒れていても保を疑うことはないのだ。
「亡骸はどうしますか? 俺としては、一応仲間だったんだし、埋葬をしてあげたいと思うんですけど」
「そうだね、そうしてあげたいね」
しかし、と保は首を横に振った。
「私も彼女を弔ってあげたい気持ちは同じだけど、我らの王が許さないだろう。彼は裏切り者をひどく嫌うからね」
「……そう、でしたね」
嘘はついていない。
「帝国」のトップである小池はじめは絶対に裏切りを許さない。
否、自分に歯向かう奴は絶対に許さないのだ。
とはいえ、歯向かわれても気づかないくらいに他者に興味がないのだ。
何よりも、ステファニーを手にかけたのは他ならぬ保だ。
ここでぱおんの言葉に従い、彼女を弔ってしまっては力が奪えない。
問題は、ステファニーの魔剣が彼女と死と共に消えている可能性もあるのだが、別に初めてのことではないので気にしない。
とりあえず、あとで亡骸を回収すればいい。
「残念です。小池さんももっと柔軟に物事を考えてくれればいいのに、あの人は戦うことしか考えていないんですよね」
「仕方がないさ。それが我らの王なのだから」
「わかっています、けど」
ぱおんが悔しそうにするので、肩に手を置き、慰める。
「君もいずれ割り切れるさ。私たちは仲良しこよしのお友達ではないのだから」
「――はい。そういえば」
「なにかな?」
「青山銀子は倒せましたか?」
「残念だけど、無理だったよ。由良夏樹たちの中では一番弱いと思っていたけど、認識を改めなければいけないようだね」
「……今度は俺に戦わせてください」
「そろそろ勝ち星が欲しい頃かな? いいよ、次はぱおんに任せよう」
「はい!」
ぱおんが嬉しそうな顔をする。
魔王サタンに関して話すつもりはない。血気盛んなぱおんがここから由良家に突撃してしまう可能性だってあるからだ。
「では、帰るとしようかな。やれやれ、我が王に報告するのは気が重いよ」
そんなことを言いながら、保はぱおんと共にステファニーを残してこの場から消えた。
■
保たちの気配が消えたことを確認し、ステファニーはゆっくりと目を開けた。
動ける気がしない。
血を流しすぎたようで、斬られた傷さえもう痛みがない。
――死んでしまうことが悔しかった。できることならもう一度異世界に戻って、逆ハーレムを堪能したかった。
悔いだけが残る。
何よりも、悔しいのが保の悪事に何も気づかなかったことだ。
夜空が綺麗だ。
星々が輝く良い夜だった。
夜空を眺めたのは久しぶりだ。
普段、そんな余裕がなかったことを思い出し、苦笑する。
もう動く力もないステファニーはこのまま美しい夜空を見て死んでいく覚悟をした。
できることなら、自分の力が保に渡らないようにと願いながら。
ふと、ステファニーの顔に影が覆った。
大きな瞳が四つ、こちらをのぞいている。
意識が遠のいていく。
ステファニーは薄れゆく意識の中――グレイをみた気がした。
(最後が宇宙人にガン見されるって嫌だなぁ)




