46「お久しぶりのアマイモン様の戦いじゃね?」①
「元気だったか、杏よ。私は、ガープばかりに買い物に行かせるのも悪いと思い、一緒に外に出たのだが……いやはや、まさか杏が襲われているとは思わなんだ」
「アマイモン様、ありがとうございます」
「礼には及ばん。しかし、この少年は力も歪んでいるが、心も歪んでいるようだな」
「かつての私を見ているようで心が痛いんです!」
「それもまた杏が立ち直った証拠だ」
アマイモンが優しく杏の頭を撫でた。
「なんだよ! なんだよ、お前は! 俺と明日香の愛を」
「私は覚えている。松島明日香は欲望に取り憑かれた少女だった」
「――ああ?」
「私も人のことをどうこう言える身分ではないのだが――哀れな少女だった」
獅子山の拳を力強く握りしめながら、アマイモンは視線を向けた。
アマイモンの獅子山に向ける感情は――憐憫だった。
「愛する少女の死を看取れなかったことさぞ悔しいだろう。だからといって、無関係な杏にあたるのは違う」
「何が無関係だ! 俺は神から聞いた! 綾川たちが異世界で俺の明日香を殺したんだって!」
「間違ってはいない。だが、正しくもない」
獅子山はアマイモンの手を振り払おうとするが、びくともしない。
神の力を得たというのに、これはなんだと歯軋りをする。
「落ち着け、少年。もしこれ以上何かをしようというのなら、私は拳で応えなければならない」
落ち着かせようとするアマイモンの言葉は獅子山に届かなかった。
むしろ、杏からアマイモンに標的を向けてしまった。
「あんたのことも知ってるぜ。弱い魔族なんだろう?」
「――貴様ぁ! アマイモン様になんと無礼な口を! 控えているよう言われたので静かにしていたらこれかぁ! アマイモン様、このガープにお任せください。私がアマイモン様に変わり、この小僧を三途の川に送り込んでバタフライさせてやりましょう!」
「――よせ、ガープ。この少年は私が相手をしよう」
「しかし!」
「任せてくれ」
獅子山にアマイモンを侮辱され、激昂したガープだったが、他ならぬ主人の言葉に膝をついた。
「――はっ。アマイモン様の御心のままに」
「感謝する。さあ、杏も下がりなさい」
「は、はい」
杏がガープに並ぶように下がったのを確認して、アマイモンは獅子山の拳を離した。
ようやく自由になった獅子山が、距離をとって構えた。
「俺はまだ魔族と戦ったことがないんだ。どれくらい強くなったのか、お前で試してやるよ! そして、綾川、次はお前だ! 三原一登も、由良夏樹も、全員ぶっ殺してやる!」
「……少年よ、落ち着け。私が杏と戦いを代わったのは、杏が勝てないからではない。不必要な人殺しをさせないためだ」
「――あ?」
「気づいていないようだが、少年は杏よりも弱い。確かに新たな神々に力をもらったのだろうが、その力を鍛えず、使いこなせるようになってもいないのであれば、ただの人がナイフや拳銃を持っているのと変わらん」
「俺を、馬鹿にしたな?」
「そんなことはない。誤解をさせたのであれば謝罪しよう」
「俺を、馬鹿に、したな?」
「だからしていない」
「俺を馬鹿にして、明日香への愛も馬鹿にしたな?」
「……すまないが、話が変わっていないだろうか?」
「俺をぉおおおおおおおおおっ。明日香をぉおおおおおおおおお!」
ようやくアマイモンは察した。
――この少年に言葉が届いていないのだと。
襲いかかってくる少年に向かい、アマイモンは魔力なしの身体で構えた。
左足でしっかり大地を踏み締め、腰を動かし、右腕を放つ。
アマイモンの正拳突きは、獅子山の腹を貫いた。




