43「楽しい気分に水を差されるとイラッとしね?」①
綾川杏は、ごく普通の中学生としての時間を過ごして、心穏やかに帰路についていた。
異世界から帰って来て、大きく反省した杏は毎日を一生懸命に生きていた。
まだ時間としてはわずかだが、そんな杏の行いを見てクラスメイトたちの態度も少しずつ変わっていった。
その筆頭が桐木霧子だった。金髪にブリーチした少し取っ付きにくい少女だったが、話してみるといい子だ。先日、桐木の妹が義政と会いたいという話を持って来たことをきっかけに、こうして出かけている。ちなみに、妹さんと義政は休み明けに会う予定だ。
「今日は楽しかったなぁ」
桐木をはじめ杏を見直してくれたクラスメイトと一緒に、今日は出かけていた。
映画を見て、ショッピングをして、お昼を食べた。
とても楽しい時間だった。
涙が出るほど、嬉しい時間だった。
思い返せば、三原一登優斗に執着していた時は、ただ彼の近くにいるだけ。
女子たちが彼の気を引きたいと必死に声を大きくして話しかけるか、優斗の彼女のひとりだからと余裕ぶってスマホを触って静かにしているかのどれかだった。杏もそのひとりだった。
なんて時間の無駄だったんだろうか、と思う。
死んだ人間に悪いことを言いたくないが、あの気持ちの悪い女しかいない空間で悦に浸っていた優斗も大概だと思う。無論、自分も。
「ガープさんたちのおかげでもあるもんね」
杏は絶望の神に、対由良夏樹用として女神アテーナーに選ばれた勇者となった。
しかし、ガープ、アマイモン、フン・フナフプ、ベヒモス、アテーナーと一緒にいる時間が長かったせいか、彼らから「杏はおかしい」と気づくきっかけをもらった。
本来なら、異世界で夏樹と敵対し殺されてもおかしくなかった杏を、ガープたちが変えてくれて、一登たちが助けてくれたのだ。
今後、一生感謝を忘れないだろう。
河川敷を歩き、ビーチチェアに寝そべりながら釣竿を垂らしている河童さんに手を振り、父が待つ家に帰ろうとした。
「――綾川、杏。だよな?」
背後から声をかけられ、振り返った。
次の瞬間、名を呼んだ少年に首を思い切り掴まれてしまった。
「な、に」
ぎしぎし、と首が軋む音が聞こえる。
血走った目をし、涎を垂らしながら杏を睨みつける少年から神気を感じとった。
間違いなく、ファンタジー案件だと理解した。
理解したと同時に、杏は首を絞めてくる少年の腕を膝でへし折った。
「ぎぃいいいいいいいいいいいいいいいっ、ああっ、てめっ、てめぇえ! なんてこと、しやがった! 話しかけた、だけだろぉおおおおおおおおおおおおおおお!」
「げほっ、げほっ、んっ、はぁ、はぁ……話しかけるのに首を絞める必要なんてないでしょう!」
「お前の都合なんか知るかよぉ!」
「……あ、駄目。この人、ちょっと前までの杏だ。話できない人だ」




