42「なんだかんだと千手さんはとらぴーといちゃついてね?」
「ん……しまった、寝ていたのか」
七森千手は自室のベッドの上で目を覚ました。
ベルトを緩めてシャツもボタンを外してくれてある。四月ももう直ぐ終わるので日中は暑いこともある。今日も日差しが強く、暖かいこともあり、布団ではなくタオルケットをかけてくれてあった。
千手はゆっくり起き上がると、リビングに移動する。
「よう、由良たちは帰ったのか?」
「あ、ダーリン! 起きたんだ!」
「ああ。ベッドに移してくれたのは虎童子だろう? ありがとうな」
「どういたしましてっ!」
「それで、由良と愉快な仲間たちはどこにいった?」
「由良夏樹と小梅はお家に帰ったよー。お義父様もダーリンが起きないからって、夕ご飯を作ってくれてから帰っちゃったー」
「……あの親父、飯まで作って帰ったのか」
「お礼言っておくといいよ。茨木童子の姉ちゃんだったら、お礼言わないと九割くらい殺されちゃうから」
「おっかねえ鬼の姉妹だな!」
それでも夕食の支度をしてくれたことには感謝しているので、テーブルの上に置いてあったスマホを手に取り、渋々父親に感謝のメッセージを送った。
すぐに絵文字が返って来たので、「いい年したおっさんがスマホ離さねえのかよ」とつい言わなくていいことを言ってしまった。どうも、父親に素直に感謝ができない。
父康弘は千手のことを我が子として愛していたというが、幼少期にそのような感情を感じなかった。お互いに歳を重ねてから言われても困るのだ。
千手はスマホをテーブルに置くと、冷蔵庫からミネラルウォーターを取り出した。
冷蔵庫の中には、包まれて焼くだけになっている餃子と鍋ごと中華スープが入っていた。
「……今夜は餃子か」
水を飲み、一息つく。
「それで、正門の神たちはどうしたんだ?」
「あまり話聞いてなかったけど、月読命に丸投げ?」
「由良ぁ!」
結局、最後には月読命に迷惑がかかるのだ。
千手は自分よりも苦労が多い月読に涙した。
同時に、新たな神々に関する扱いは難しいので、月読命に任せるのがベストではないがベターであることはわかっている。
敵であれば、敵として対処すればいい。その場合、夏樹が一番楽に思うだろう。
反対に敵意のない、両手を挙げて降伏した者たちに関しては殺すわけにはいかない。
夏樹だってそんなことはしない。
「ところでダーリン?」
「なんだよ?」
「あたいのこと見てなんか感じない?」
「どういう意味だ?」
虎童子がキラキラとした瞳を向けてくるが、彼女の言いたいことがわからなかった。
「いつも通りだが?」
「―――ちっ、呪いは失敗か」
「おい、こら。待てや。お前、俺が意識失っている間に何しやがった!」
「ひゅーひゅーひゅー」
「口笛吹けてねんだよ! 令和の時代で口笛吹いて誤魔化そうとするやつ初めて見たぞ!」
「とらぴーわかんない! 何もしてないもん!」
「本当か?」
「本当だもん! ダーリンに呪いをかけてあたいにメロメロにしてやろうなんて思ってないもん!」
「――おい」
「しまった! あたいったら素直だから!」
「そういう問題じゃねぇえええええええええええええええ!」
――幸いなことに、七森家は平和だった。




