82「裏切りって最低じゃね?」①
「ふざけないでっ!」
胸ぐらを掴まれたままの状態でキリエが小梅に蹴りを入れた。
しかし、小梅はびくともしない。
「なんちゅーか、最初はおどれのことをぶっ飛ばしてやろうかと思ったんじゃが、冷静に考えれば力を持ったせいで歪んでしまったんじゃろうな」
「……だからっ、あんたに関係ないでしょ!」
「関係ないんじゃがなぁ、おどれが知らんところで何かするんならええんじゃが、間違いなく巡り巡ってイベントが起きて我が家の勇者が巻き込まれる気がするんじゃよなぁ。というか、すでにイベントには巻き込まれておるんじゃが」
「……何を、言って」
「まあまあまあ、それはこっちの話じゃからええんじゃが。さて、どうするかのう? おどれが親や学友に何かしたいんじゃったら、まあ勝手にせいと言いたいのも本音なんじゃよ。じゃが、良くも悪くも、「帝国」じゃろう? 今の所、「帝国」は俺様たちの敵なんじゃが」
「私はあんたたちに何もしてないじゃない!」
「現在進行形で俺様が蹴られとるんじゃが……それはええとしておこう。ところで、俺様は疑問なんじゃが?」
「――なによ!」
鼻血を流しながら睨みつけているキリエは、効いていないとわかっているのかいないのか、小梅を今も蹴り続けている。
勇者としては、弱々しい蹴りだが、何も力を持たない一般人なら十分殺せるくらいには強い。だが、その程度だ。
(――夏樹と比べるまでもなく、祐介や一登、杏に比べても大した力はないようじゃが。勇者ちゅーのはどいつもこいつも規格外ってわけじゃないんじゃのう)
あくまでも小梅の見立てでは、安倍円の方が強いと思えた。
霊能力者という異質な存在ではあるが、兄の安倍東雲のように力のある式神を持っているわけではない円は生まれ持った霊能力と努力によって力を得たお手本のような人物だ。
十分、強者の部類に入るのだろうが、異世界帰りのおかしい奴らに比べると、劣って見えてしまうのは仕方がないことだ。
そんな円と比べても、キリエの実力は下だろう。
(この程度の奴を放置しても大した脅威にはならないんじゃろうが……お姉ちゃんの守護する街に野放しにするわけにもいかんのじゃ)
「キリエじゃったのう、おどれがありすについてこっち側の「帝国」についてきたことは別にいいんじゃが、元いた「帝国」とは繋がっておらんのか? いつでも戻れるように保険として連絡をとっておるとか、ありすを売ろうとしているとか、あるじゃろうて」
「――そんなことしてないわよ!」
「しとらんのか!? 素直に喋らんと、軽く二十枚ほど爪がどこかに飛んでいくことになるんじゃが」
「軽くないでしょ、それ! というか、私は甘いこと言っているありすさんを利用しようとしてたけど、だからってあの脳筋どもにありすさんを売ったりしないわよ!」
「……おどれの線引きが曖昧でようわからんのう」
「言っておくけど、あの小池はじめとかいう「皇帝」は自分が好き勝手しているのにこっちのことは制限しているのよ!? ありすさんみたいに綺麗事は言うけど、ちゃんと自分を律している方がまだこっちに誠意があるじゃない!」
「……おどれはありすを貶したいじゃか、褒めたいんじゃか、どっちなんじゃ?」
「一応褒めているわよ! 私は気に入らないけれどね! 私みたいな馬鹿に利用されていることも気づかない甘ったれなところは嫌いだけど、あのクソどもに売ったりしないわ! そんなことしたらありすさん殺されるんだけど!? わかってるの!?」
「――え? キリエさん、裏切ってないんですか?」
「僕、てっきり」
「わたしも、え、じゃあ、私たちって」
キリエ以外の、少年少女が動揺を始めた。
もう聞くまでもない。
三人は裏切り、元の「帝国」と内通していたのだ。
「――そんな」
「あんたら、何を考えて」
「なんちゅうか、図々しくて自分本位な小娘が一番律儀じゃったというのも面白い話じゃのう」
小梅はキリエを床に投げると、少年少女を沈黙させるために襲い掛かろうとした。
――だが、その瞬間、倉庫の壁を何かが突き破ってきた。
砂埃が立つ。
じゃりっ、と細かい破片を踏んでこちらに誰かが近づいてくる。
「――げほっ、ごほっ……ブレーキがギリギリ間に合ってよかった」
「いや、間に合っておらんのじゃが!?」
「お待たせ! 河童大神様に仕える河童さんたちの守護聖人にして、ギャラクシー流門下生に! ギャラクシー河童勇者とは俺のことだぁああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!」
いつも通りの由良夏樹が、なぜか老婆を背負って登場した。




