78「イベントに立ち向かわなければいけないんじゃね?」
――由良夏樹はサタンからの説明を受けて震えていた。
「つまり、「帝国」が二分されていて、その片方のトップが俺に会いに来たってこと?」
「そうだ」
「とりあえず小梅ちゃんが月読ファミリーを代表として対応をしてくれているの?」
「リムジンで接客されているぞ。花子も合流したみたいだな」
「……リムジンって。いやいや、それよりも、たもんたもんってなに!? まもんまもんの亜種なの!?」
「それは俺も知らねえ。というか、知りたくもねえ」
せっかくの休日にイベントが家にまでやってきたことにも驚きだが、「たもんたもん」と語尾をつける女性がいることの方がインパクトが強くて、夏樹の耳にちゃんと話が入ってこない。
又聞きでこれだ、実際に顔を合わせて「たもんたもん」と言われたらどのようなことになるのか想像もできない。
「そもそも「帝国」ってできたばかりの組織なのにもう内部分解しているとか笑えるんですけど」
「それはもう言ったなぁ」
「とりあえず、「帝国」って敵でしょう? 問答無用で殺せば解決しね?」
「……発想が中学生じゃないんだよなぁ」
「そうかもしれないけど! でもさ、――死体は何も喋らないし、イベントにもならないから」
「うーん、怖い! 怖い怖い! もうなんか言っていることが悪党!」
「あの、俺、勇者なんですけど」
「闇堕ちした勇者でもそんな殺伐としたこと言わねえよ!」
サタンの言葉に、夏樹は肩を落とした。
言い訳をするわけではないが、どうせ最後には戦いになるのだから会話をする時間が無駄だと思えた。
早く殺せば、早く帰宅できる。
多すぎるイベント量に機械的に対応しないと、心が疲れてしまう。
「サタンさん的には殺すでも殺さないでもどっちでもいいんだけどさ。あまり春子さんに心配させないようにな」
「俺だって心配かけたくないからね? 心配も積もると怒りになってお仕置きされるのは身に染みているんだから!」
「その割には懲りてねえなぁ」
「あのね、少なくてもここ一ヶ月に起きたイベントの大半はイベント側からやってきたからね! 俺は巻き込まれただけだから!」
「……そういう見方もあるのかもしれないな」
「そういう見方しかないよ!?」
日本にもファンタジーがあって、戦うのが楽しいと思えたのは最初くらいだ。
それぞれ事情があって、戦う理由があって、だんだんしんどくなってきた。
どうせ戦うのなら、頭空っぽにして戦うくらいでちょうどいいのだ。
「それで、小梅ちゃんと花子さんは――海の近くの道路を走っているのね。小梅ちゃんがちゃんと話を聞いてもいいと思える相手なら、まあ、俺もお話聞きますか」
「そうしてやってくれ。小梅と花子なら、話を聞く価値なしと思ったと同時にもうぶっ飛ばしているはずだから」
「――ですよねー」
夏樹はジャージを脱いで、先日、円と一緒に購入したカーゴパンツとセーターを身につける。
スマホの充電も完璧だ。
「買ったばかりの服が戦いでダメになりませんように!」
「……心配するのはそこかぁ」
「お洋服も高いからね! 中学生のお小遣いじゃ限界があるの!」
そろそろ水無月家からもらった謝礼も底をつきる。
「――俺、このイベントが終わったら、水無月家にバイト紹介してもらうんだ」
「……どうしてわざわざフラグ建てるような言い方するのかサタンさんわからない!」
―――こうして、由良夏樹がイベントに参戦した。




