74「ありすさんの過去じゃね?」①
百合園ありすは、二年前――十五歳になる少し前に異世界に「勇者」として召喚された。
「――勇者様、どうか我が国をお救いください!」
ありすの他に、三名の勇者がいた。
本来ならば、ひとりの勇者を召喚するはずが、想定外に四人も召喚されてしまったのだ。
召喚国は、これを喜んだ。
勇者が四人も来てくれて、ありがたい、と涙を流して喜んだ。
話を聞けば、隣国との争いが激化しているという。
召喚国は戦争などしたくはないが、侵略してくるのであれば守らなければならないと全力で応戦した。
しかし、隣国の方が強かった。
隣国には、勇者がいたのだ。
ありすのように召喚された者ではなく、隣国で生まれ育った勇者だという。
隣国の勇者は一騎当千であり、召喚国の名のある騎士も、魔法使いもすべて蹴散らしたという。
そこで、勇者召喚をして、ありすたちが召喚されたのだ。
隣国の王と王子、そして重鎮たちは「こちらの都合で巻き込んでしまったことを深くお詫びします。しかし、お助けいただきたい」と願い、できることならなんでもすると約束してくれた。
生来、生真面目な人間であるありすは、見返りなどいらないから戦いに勝利したら日本に帰して欲しいと願った。
召喚国側も、召喚者たちの魔力が回復すれば返すことが可能だと言ってくれたので、戦うことにした。
困っている人を見捨てられない、ありすの選択だった。
だが、ありす以外の三人はわかりやすく欲望に忠実だった。
ひとりは性欲を発散することを求め、ひとりは力で命を奪うことに取り憑かれた。もうひとりはこの世界に永住したいと言い、地位を約束された。
ありすは三人のことをどうとも思わなかった。
理不尽に召喚されて、聞ける願いはなんでも聞くと言われたのだから、なんでも願えばいいと思う。
無論、気に入った女性を好き勝手する少年や、命を奪うことに快感を覚える少年とは親しくしたくない。
ありすは自分がすべきことをして、帰るだけだった。
そんなアリスの態度を、三人は快く思わなかったらしい。
命を狙われるなどの危害を与えられたわけではないが、非協力的だった。
ちまちまとした嫌がらせを受けたことも何度もあるが、さすがに彼らも召喚国の不利益になることはしなかったので気にならなかった。
移住希望の勇者はさておき、欲望を満たすことを優先する勇者ふたりは召喚国から結果を出してくれるが評判はよくなった。
そのせいか、召喚国の王子がありすによくしてくれた。
気持ちはありがたいし、王子と親しくすることでありすの立場は守られていたが、次期国王に決まっている王子と親しくすることで、貴族の令嬢たちの反感を買った。
嫌がらせは多く、うんざりしてしまった。
王子が何度か気づき「勇者様になんてことを!」と令嬢に処罰を与えると、また反感が増える。
前線で戦ってもいない令嬢たちが、嫉妬で戦う者の足を引っ張るのだからやってられない。
――ありすはすっかり人間関係にうんざりしてしまった。
命を奪ってしまった罪悪感も、いつの間にか消えた。
この世界のことは、もう夢か何かだと思うことにしようと決めて戦い続けた。
一年ほどの時間が経ち、ありすたちは隣国の勇者を倒すことに成功した。
ありすはここで限界だった。
国王と王子に、懇願し、元の世界に帰して欲しいと願った。
国王は謝罪と感謝を述べ、いくつかの財宝をありすに渡してくれた。
王子は、ありすを慕っていたようで求婚してきたが、はっきりと断った。
異世界人の自分では王子と釣り合わないし、いつまた令嬢たちに嫌がらせをされるか考えるだけでも恐ろしいと、心中を吐露した。
おかげで王子も諦めてくれた。
こうしてありすは日本に無事帰還した。
これでようやく悪夢から覚めたとホッとしたのだ。
――だが、ありすには勇者の力が残っていた。




