73「お嬢様キャラって理事長の孫とかじゃね?」①
「まさか小梅がリムジンに乗ってもてなされているとは思わなかったわ。こっちは向島市の土地神としてパトロールしている最中なのに」
「別にもてなされているわけじゃないんじゃがのう」
花子は座席に背中を預け、足を組んだ。
懐から魔法瓶を取り出し、蓋をコップにしてお茶を注いで飲む。
「――リムジンで飲む温かいお茶は最高ね!」
「……まあ、お姉ちゃんがそれでええなら俺様は何も言わんのじゃが」
「何よ、美味しいじゃない。お茶! 私はビールとハイボール以外は暖かい飲み物が好きなの! じゃなくてね、私の美しい耳にあんたたちの声が聞こえてきたんだけど、「帝国」だったかしら。そんな組織がいたっていうのは水無月家にも情報は入ってきたわ。正直、失笑もんよ! なによ、そのネーミングセンス! なんで帝国を帝国っていうのよ、最低でもドイツ語でしょう!」
「わ、わたくしに言われましても」
焦りを見せて前のめりになっていたありすが、休みなく話し始める花子に気押されたようにゆっくり座り直した。
「一応挨拶をしておくわね。私はルシファー・花子。小梅のお姉ちゃんで、ルシファーさん家の長女よ! 今は、向島市の土地神業務しながら水無月家にご厄介になっているわ!」
「お、お初にお目にかかります。わたくしは、百合園ありすと申します」
「護衛の八咫多聞でございたもんたもん」
「個性つよぉ」
お嬢様キャラのありすよりも、語尾の主張の強い多聞の方に花子が反応してしまう。
護衛として目立つのはどうなんだろう、と思う一方で、主人よりも目立つことで悪意から守っているのではないかと深読みしてしまう。
「ご、ご丁寧にどうも。ところで、小梅」
「なんじゃ?」
「由良さん家のギャラクシー河童勇者はどうしたの?」
「毎日がイベントすぎてさすがに疲れたようで二度寝しとる」
「……あの子でも疲れることってあるのね」
「俺様もびっくりじゃ。てっきり一晩眠れば何もかも回復して元気いっぱいかと思っていたんじゃ」
「本当よねぇ」
「あ、じゃが、最近は夢の中でもイベント起きているせいで寝た気がしないって言っておったのう」
「……いやね、そんなブラックな環境の勇者って」
「まったくじゃ!」
中学生でありながらブラック企業よろしくイベントが訪れる夏樹に花子と小梅が苦笑いした。
現時点で、新たなイベントがこうして起きているのだから、二度寝もそろそろ終わりの時間だろう。
「ありすだっけ?」
「はい! ……まさか天使様とおふたりもお会いできるなんて光栄です!」
「あー、なんていうかこんな天使でごめんなさいね。どうせならもっと正統派の天使と変わってあげたいんだけど」
「何を言うんじゃ! 俺様たちよりも天使らしい天使はおらんじゃろうて!」
「……変にお堅い天使よりはマシではあるとは思うけど。まあいいわ、聞き耳立てちゃったけど新たな神々と自分たちの組織の扱いに困っているってことよね?」
「……はい。お力をお貸しいただきたく、由良夏樹様に会いに参りました」
「真面目な子ねぇ」
「ちょっと今までにないキャラなんじゃ。もっと適当に巻き込んでくれば雑に扱うことができるんじゃが、生真面目というかなんというか、こっちも真面目に話をしてしまうような娘じゃ」
「――まるで私のようじゃない。人ごとに思えないわ」
「文学少女じゃったお姉ちゃんならいざ知らず、今のイケイケなお姉ちゃんにありすと同じ要素はないじゃろう。むしろ、俺様のほうがかつてお嬢様キャラじゃったんだからにとるじゃろう!」
「小梅は派手目なお嬢様キャラだったじゃない。見た目だけだけど。この子は、儚げっていうか、真面目って言うか。やっぱり私にそっくり!」
どうしてもキャラが似ていると言って譲らない花子にありすがどう返事をしたものかと悩む。
小梅は「いや、ありすはどうひっくり返っても年収一千万の男と結婚したいとは言わんじゃろう」と冷静にツッコミをしていた。
「――ありすだったわね。あんたの悩み、このルシファー・花子が聞いてあげるわ! 夏樹が出るまでもないわよ、向島市で悪さする奴は雲海おばあちゃんの名のもとに成敗よ!」
「……なーんで雲海おばあちゃんの方が偉いみたいな感じになっとるんじゃ!? いや、俺様も雲海おばあちゃんに勝てる気はしないんじゃが!」




