間話「ツッコミ担当の業じゃね」②
七森千手は再び向島市にある耳鼻咽喉科を訪ねていた。
「……めちゃくちゃ嫌だが、また初診でかかるより再診の方が早いからな。決して、俺はここにきたくてきたわけじゃない!」
「ダーリン? 急に言い訳始めてどうしたの? とらぴーびっくり!」
待合室には虎童子以外がいなかったので、つい声を出してしまった。
千手は反省し、喉を押さえた。
「俺はもともとこんなに口数が多い方じゃなかったんだよ」
「またまたぁ」
「本当だよ! 由良と出会うまではちょいワル系なクールなお兄さんで通っていたんだ!」
「とらぴー鬼だけど、本当にクールな人は自分のことをちょいワル系なクールなんて言わないって知ってるよ?」
「――ぐっ」
「というか、あたいと初めて会った時も、ダーリンはツッコミにツッコミを重ねたツッコミ会の貴公子だったと思うんだけど」
「…………ツッコまねえぞ」
「やだ、ダーリンったら。昨日は散々」
「何もしてねえよ! 誤解される様なことを言うな! おい、あんた! 受付のあんただよ! なんで若いっていいわねって顔してんだ!? 親指を立てるな! 照れてねえよ!」
不思議なことに、病院に入ってから喉の痛みが悪化した気がした。
「七森さーん。ツッコミ界の貴公子七森さーん! 診察室にどうぞー!」
「おい、待て! 絶対聞いていただろ! わかっています、みたいな顔すんな! さすがにブチ切れるぞ!」
「ほら、ダーリン。早くお医者様に見てもらって元気にならなくちゃ」
「そう思うのならツッコミさせないで!?」
虎童子に背中を押されて診察室に向かう。
大きくため息をついた千手を待っていたのは、椅子に腰をかけて穏やかに微笑む医者だ。
「――また、お会いしましたね」
「そりゃな! あんたが一週間後に来いって言ったからな! あと、微妙にキャラ変えてくんな!」
「今日は、診察ですか? それとも修行ですか?」
「おかしいだろ!? 医者に来て診察以外を求める人間はいないだろ!」
「予防接種という選択肢も」
「細かいこと言いやがって! そうじゃねえよ! なんで医者で修行しますか、なんて聞かれないといけないんだよ!?」
「――あなたに寄り添いたいだけなのです」
「だからキャラ前回と違うだろ! あれ、別人か!?」
「いえ、同じですよ。雰囲気出した方がいいかなと思って」
「じゃあ、最後まで出し続けろよ! 戻すなよ!」
「では、一週間後にまた」
「診察して!?」
「ははは」
「ははは、じゃねえよ!?」
「すでに診察は終わっています。あなたが、この病院に足を踏み入れたときから、ね」
「意味がわからない!」
「あなたのフィアンセとらぴーさんとのやり取り、受付への対応、そしてこの私へのツッコミすべて見ていました」
「気持ち悪いな!」
「まだもう少しツッコミの技量を上げなければ、喉の負担は大きいですね」
「知らねえよ! ツッコミどころが多すぎてどこから対処すればいいのかわからねえ!」
「それです!」
「どれだよ!?」
「あなたが次のステージに上がれば、このくらいのボケには対処できるでしょう」
「医者が患者を前にしてボケんな!」
「ナイスツッコミ!」
「…………この」
千手がプルプル震える。
正直、この医者は由良夏樹よりも面倒臭い。
「冗談はここまでにして、診察しますねー」
「…………頼む」
「では、お口をあけてください。はい、みーん」
「…………さすがの千手さんもそろそろ暴れるぞ」
「はははは! あーん」
「あーん」
「あー、まだ腫れてますねぇ。もしかして、大きな声を出したりしていませんでしたか?」
「ずっとしてたよ!」
「お薬は続けて出しておきますね。もう少し腫れが引けば痛みもなくなるでしょう。また一週間後に来てくださいね」
「むしろ、なんで腫れが引いているんだよ。俺、この一週間叫び続けていたんだけど」
「では、お大事に」
「聞けよ!」
「――そして、また一週間後に。あなたはきっとくるでしょう」
「そりゃくるよ! 今、来いって言ったのはあんただろ! あと雰囲気出すな!」
「とらぴーさんとお幸せに」
「余計なお世話だ!」
千手は診察室を後にすると、支払いを済ませ薬をもらって帰路に着いた。
「……訳わかんねえあの医者。口コミじゃ一番だったぞ? 患者に寄り添ってくれる親切な医者だって。向島市いろいろおかしいだろ。あ、頭痛くなってきた」
「ダーリン? 頭痛外来行く?」
「ぜっったいに嫌だ! 個性的な医者が出てきたら俺には対処しきれない!」
肩を落として歩く千手の腕に虎童子が腕を絡めてくるが、振り払う余力がなかった。
虎童子はご機嫌に、千手はげんなりし、夕陽が沈みつつある向島市の道を歩くのだった。




