103「向島四大天使って意味わからなくね?」
「…………桐木さん。杏と一登と同じクラスで、窓際の一番後ろの席のちょっとヤンキーって言われている桐木さん」
「……なんで説明口調なんだよ。クソみたいなクズ男に引っかかってよくわかんない言動していた綾川」
「く、黒歴史だもん!」
ぐはっ、とクソみたいなクズ男の弟である一登がダメージを受けて胸を押さえた。
残念だが、一登と親しくしてくれる生徒はいるが、兄のせいで快く思われていない場合もある。
「あ、ごめん。クソみたいなクズ男の弟にして向島四大天使の三原一登きゅん」
頭部のてっぺんが黒く、他はブリーチをした金髪の少女は、ちょっとテンションの低い声で一登に軽く手をあげた。
「長いよ! 説明が長いよ! ていうか、向島四大天使ってなに!?」
「え? 知らないの?」
「知らないよ!?」
「向島三大悪夢ってあるじゃん」
「筆頭が大親友だよ!」
「それの逆。向島のなまはげのお母さんと三原一登きゅんが四大天使のふたりなんだけど」
「春子さんまで!? ていうか、きゅんってなに、きゅんって」
「――あ」
しまった、と金髪の少女――桐木が口を閉じた。
「えっとね、一登は女子たちから一登きゅんって呼ばれてるの」
「なんで!?」
桐木の代わりに杏が一登に説明する。
説明された上で、一登にはよくわからなかった。
「ミスった。いつのも癖で、つい呼んじゃった」
「癖になるほど呼ばれているんだ……それで、桐木さんがどうして話しかけてきたの? あ、クラスメイトだから話しかけてくれるのは全然いいんだけど、普段はあまり会話したことないよ、ね?」
「そだね。女子たちの中で一登きゅんに不用意に話しかけたら斬首だから」
「そんな馬鹿な!?」
「それはいいとして、ずっと仲悪かった綾川が一登きゅんと最近仲良いから気になっていたんだよね。いろいろあったみたいだし、良い意味で変わったと思っているからみんな好意的に見守っているけど、綾川は向島のなまはげとも仲良くなってるじゃん」
「う、うん」
「同じクラスの森山田なんて、独身拗らせていたおばさんにイケメンの婚約者ができたところに綾川がなまはげと親しくしている姿を見て、向島市に天変地異が起きると怯えて引っ越しちゃったくらいだし」
「隣の席の森山田さんがいないのってそういうことだったの!? ていうか、杏、そんなふうに思われていたの!?」
「……夏樹くんのこと名前で呼んであげてよ」
「向島のなまはげの名前は、呼んじゃいけないってご当地ルールがあるから」
「初耳なんだけど!?」
以前から思っていたが、夏樹の扱いが悪い。
自業自得な面もあるが、それでも悪すぎる。
「それで、ちょっと相談なんだけど。綾川たちと一緒にいる子の中に、ちっちゃい子供がいるでしょう?」
「……義政先生のことかな?」
「義政先生かなぁ?」
「……なんで先生なのかわからないけど、私の妹がその子に会いたいんだって」
「――まさか」
「――恋の予感!?」
想定外の展開に、一登が驚き、杏が瞳を輝かせた。




