102「遅刻の気配じゃね?」
夏樹の夢について会議が開かれている頃、三原一登と綾川杏はいつもの通学路にいた。
「お兄ちゃん来ないね」
「連絡しようかと思ったんだけど、昨日、マモンさんがお泊まりするって言ってたから、きっと朝からイベントで忙しいんじゃないかな」
「まもんまもん系インフルエンサーのマモンさんがお泊まりとか……すごいね。でも、昨日はライブ配信していなかったよ。さまたんちゃんねるも」
「……さすがのマモンさんも人の家で配信はできなかったと思うよ。ていうか、マモンさんもライブ配信とかしているんだ」
魔族と人間の触れ合いがそんな簡単でいいのだろうか、と一登は考えてしまうが、自身も知らぬうちにサマエルことさまたんと知り合っているし、七つの大罪のリヴァイアサンはリヴァ子として人気動画配信者だ。
今さらといえば、今さらである。
「あと、夏樹くんは夢見が悪くて叫ぶから。もう寝起きからイベントだよね。……レベルアップの件もあるし」
「あ……杏ね、今朝、レベルアップした」
「奇遇だね、俺もだよ。何あれ? どんな仕様なの?」
「わ、わかんない、淡々としたハスキーなお姉さんの声が機械みたいで怖いよね」
「……え? 俺の場合は、なんか太い声でちょっとお姉さんみたいな話し方なんだけど」
「…………」
「…………」
「怖い怖い怖い怖い!」
「ふぇぇん、こわいよぉ!」
きっかけは夏樹と一緒に聞いたレベルアップの声だが、そのあとは一登は「おねぇ」な声にレベルアップを告げられている。
なぜか親身なのが地味に怖い。
一方、杏はハスキーボイスのお姉さんのような声が、淡々とレベルアップを告げていくのだ。
どちらも共通しているのは、自分のレベルがいくつか知らないことだ。
「……きっと夏樹くんもレベルアップしたんだろうなぁ」
「そうだね。毎日、経験値多そうだもんね」
そもそもレベルアップする意味がわからない。
わからないものは怖い。
夏樹と違って、一登と杏は繊細なのだ。
「火輪さんに聞いても、レベルアップはしらないみたいだし」
「私もガープさんに聞いたけど、ステータスオープンって言ってみるように言われたけど、何も起きなかった」
「……ガープさん、そういうの好きなんだ」
「もしかしたら、その内、ダンジョンが出現するかもしれないから覚悟しておけって」
「嫌だなぁ、昨日の川に地下があったことを思い出すと、ダンジョンとか普通にありそう」
「……そうなったら、ダンジョン系配信者になってひと稼ぎだね」
「中学生なのに確定申告したくないなぁ。というか、杏も好きだね」
「う、うん、女の子だから」
「性別関係ある!?」
そんなやりとりをしていると、スマホのアラームが鳴った。
そろそろ学校に行かないと遅刻する。
「……夏樹くんにメールして、とりあえず俺たちは行こうか」
「うん」
夏樹がその気になれば、遅刻まで一分でも間に合うだろう。
一登は夏樹を信じて先に学校に行くことを決めた。
(――もっとも、なんらかのイベントに巻き込まれて学校を休む可能性もあるんだけど)
慣れた手つきで夏樹にメッセージを送ると、スマホを制服にしまう。
「よし。じゃあ、行こうか」
「うん」
「――綾川、ちょっといい?」
「え?」
急に声をかけられて振り返ると、長い髪をブリーチして金髪にした少女が不機嫌な顔をして立っていた。




