95「勇者でもホラー展開は怖くね?」②
由良家の茶の間。
母、春子が慌ただしく出勤した後、顔色の悪い制服姿の夏樹にサタンがそっと声をかけた。
「――夏樹、お前憑かれているんだよ」
「ぴえっ」
「まもん。まもんまもん、まもまもん、まもんまもん」
「マモンさんまでそんなこと言わないでよ!」
「……おかしいなぁ、サタンさんにはマモンがまもんまもんとしか言っているようにしか聞こえないんだけどなぁ。ていうか、朝飯食ったなら青森帰れよ」
洗面所で倒れた夏樹に誰よりも早く気づいてくれたのはマモンだった。
春子が夏樹が気絶したとしれば心配するだろうと考え、そっと部屋に運ぶと着替えを行い、髪のセットまでしてくれた。
また、夏樹の首のアザをみられないように、リヴァ子からファンデーションを借りて処置してくれたのだ。
おかげで、母は夏樹に何が起きたのか気づかずに笑顔で出勤して行った。
「……さすがにちょっとまずい気がする。掴まれた場所もまだアザが残ってるし」
首以外にも足を掴まれている。
正直、ファンタジーではなくホラーだ。
「……まもんまもん」
「そうだね。一度、お祓いに行った方がいいのかもしれない」
「……魔族がお祓いって。ていうか、相変わらずまもんまもん語がわからねえ!」
「まもんまもん」
マモンが肩をすくめてみせた。
「今のはやれやれ、って言ったのはわかったぞ!」
「違うよ、サタンさん。牧師の資格ならネットで取ったんだけど、お祓いはできないって言ったんだよ」
「たった六文字にそんな長い意味があるの!?」
「うん。あったよ」
「すごいな、まもんまもん語」
サタンがまもんまもん語に感心していると、階段を降りてくる足音が聞こえた。
「――待たせたんじゃ!」
「お待たせしましたっす!」
茶の間の飛び込んできたのは、巫女服に身を包んだ小梅と銀子だった。
「――なんで?」
「……どうして?」
「――まもん?」
なぜ巫女姿なのか、なぜその衣装を持っているのか、ツッコミどころは多い。
しっかり足袋まで履いているので本格的だ。
「このスーパープリティ大天使小梅様巫女バージョンで夏樹に憑く悪霊を退治してやるんじゃ!」
「ふっ、こんなこともあろうかと巫女服を買っておいてよかったっす! というわけで、今日はみんなの銀子さんは巫女バージョンっすよ!」
背中合わせになってポーズを決める小梅と銀子の新鮮な姿に夏樹が拍手をした。
美脚が隠れているようで、袴と足袋の間の隙間から細い足首が見え隠れしているのが夏樹的にポイントが高い。
不思議と心が浄化されているような気持ちになった。
きっと、こういうことの積み重ねで世界から争いが消えていくのだろう。
「――なんだか見ていて痛々しいでまもんまもん!」
満足していた夏樹に対し、マモンはお気に召さなかったようで素直な感想を口にした。
すると、巫女ふたりはそれぞれスリッパと布団叩きを構えると、マモンに殴りかかった。
「いい年して語尾がまもんまもんのおどれに言われたくないんじゃ!」
「痛々しさならマモンさんのほうがやべえっすからね!」




